「読む人の心が痛む」漫画を描く男の激情人生 人気作は「20年間の引きこもり」から生まれた

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中学時代も、高校時代も、漫画家になりたいという気持ちはあったが、漠然と運動部を続けていた。高校時代はラグビー部で活躍した。高校最後の春合宿は、かなり自信に満ちて挑んでいた。将来体育会系で生きるかどうかはずっと悩んでいたが、その時分は「大学に行ってもラグビーをやろう」と思っていた。

春合宿が終わる5分前、2人がかりで止められたのを跳ねのけた時、足首がぐるっと回った感じがした。すぐにグラウンドから引きずり出され「ここで待ってろ!!」とコーチに言われた。座って足を眺めていると、足首がみるみる腫れあがり、スパイクを脱ぐことすらできなくなった。

「終わったな。いろいろ頑張ってきたけど、こんな結末をむかえるんだ……」

と思った。1日だけ入院して家に帰った。

高校生なりに無常を感じたのだろう、

「運動しないなら飯は食わなくていい。今までラグビーをするために食ってたんだから」

と食事をとらなくなった。

1日1冊本を読むと決めて、毎日読書に明け暮れた。周りからは、「新井はケガをしてから変わった」と言われた。

それだけ、ラグビーをあきらめるのはつらかった。

ラグビーをあきらめたのだから、ついに漫画を描き始めたかというと、そうでもなかった。大学に進学すると、アルバイトをして、女の子と遊び、麻雀をするという日々を繰り返した。大学4年になると、周りの学生は春から就職活動を始めたが、新井青年は夏も終わりかけた頃悠長に始めた。

漫画家にならないならどこで働いても同じ

「漫画家にならないならどこで働いても同じだと思ってた。行きたい会社もなかったし。古くからの友達に『新井付き合えよ』って言われたので、会社の面接についっていった」

行ったのは文具メーカーとパチンコメーカーだった。友達と一緒に受けて、2人ともどちらの会社も受かった。小学校から大学までずっと一緒に過ごした友人だったので、就職先まで一緒ってのは気持ち悪いから分かれようという話になり、友達はパチンコメーカーへ、新井さんは文房具メーカーに就職した。

もちろん、文房具には何の興味もなかった。会社の机のいちばん上の引き出しには、問屋さんがくれたお絵かきセットしか入っておらず、暇があれば落書きをしていた。会議中に絵を描いていたら、社長に激怒された。一時は同期みんなでセールスに出ると、雀荘に集まって夕方まで麻雀を打っていた。

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