学校では運動神経がいい男子というレッテルを貼られていたので、本来は得意でない陸上競技や水泳も、必死になって練習していた。ただ、運動も好きだったが、漫画や映画も好きだった。新井さんのお父さんは映画ファンで、毎週一緒に映画館へ行った。
最初は子ども向けの映画を観ていたが、だんだん大人向けのリバイバル映画に連れていかれるようになった。
「タクシー運転手の話だよ、なんて言って『タクシードライバー』(マーティン・スコセッシ監督作品 アメリカン・ニューシネマの代表作を観させられたりね。結構な衝撃だった(笑)」
小学校高学年になって、友達同士で漫画をノートに描いて見せ合う連載ごっこを始めた。みんな、当時人気が高かった、本宮ひろ志、水島新司、永井豪を真似た漫画を描いていた。その中に北本君というとてもうまい子がいた。
新井少年が北本君に「将来はやっぱり漫画家になるの?」と聞くと、北本君は「僕は編集者になろうと思ってるんだ」と答えた。
「こんなにうまいやつが漫画家じゃなくて編集者になるっていうんだ。だったら漫画家になるのはよっぽど厳しいんだなと思った。今思えば、小学生で編集者になりたいってなんなんだよって話だけどね(笑)」
多数派が大嫌い
スポーツをして、漫画を描いてと、いたって健康的な少年だった新井少年だが、小さい頃からなぜか多数派が大嫌いだった。
「僕らが小さい頃のヒーローって一匹狼だったよね。反体制派、『愛と誠』(梶原一騎原作・ながやす巧作画)の主人公、太賀誠とかね。えらそうなヤツに怒りを感じるのは標準だったと思う。『週刊少年ジャンプ』のキャッチコピー『友情・努力・勝利』なんて最悪だよね。もちろん個々の作品を揶揄するわけじゃない。でも『友情・努力・勝利』は多数派が正義だってのを教え込むだけだと思う。いじめやファシズムの温床になりかねない」
中学校に入ると、不良グループがいて結構ひどい悪さをしていた。クラス内では「クラスの子がやつらに被害を受けたら、みんなで助け合おうね!!」という話になっていた。新井少年は、わざと不良グループを怒らせてケンカをした。クラスのみんなはその様子を、ぼーっと見ていた。誰も助けない。
新井少年は、なんだか妙に悔しくなって、ボロボロ泣いてしまった。次の日も、次の日もケンカをした。不良グループに押さえつけられて、顔面を蹴られていても、誰も助けに来なかった。
不良グループが嫌いなのは変わらなかったが、それでもクラスのヤツらよりはこいつらのほうがマシだって思えた。
「険悪な雰囲気のままだけど、不良グループと話すようになった。とにかく『体制側は気持ちが悪い』っていうのが刷り込まれた。それは今でも変わってない。ネット上でも『こいつが悪人だぞっ!!』ってなった時に、こぞってみんなが責める時の気持ち悪さは虫酸が走る。どんなに嫌いなヤツでも、多数に責められてたら、俺は嫌いなヤツの側につきたいね」
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