機関車より貴重?SL列車の「客車」が足りない 旧国鉄車両は老朽化、新車投入は高コスト
さらに前向きにとらえるのなら、JR東日本と大井川鐵道で運用されている一般型客車の産業文化財的な価値を、今一度見直し、蒸気機関車と同じく動態保存という視点を持たねばならないのではあるまいか。観光列車用とはいえ両社では、いまだ鉄道史上において貴重な車両が現役なのである。
一例を挙げると、両社に1両ずつ在籍しているオハニ36形がある。これは戦後、安全上問題が多かった木造車(車体の骨組みまで木製の車両)を一掃するため、台車などの部品を流用して鋼鉄製の車体に改造した、「鋼体化客車(オハ60系)」と呼ばれるグループの、最後の生き残りである。
車体の鋼鉄製化は1926(大正15)年の特別急行脱線転覆事故(2015年10月の記事「鉄道の衝突事故対策はどこまで万全なのか」を参照)を受けて、昭和の初めより始まったが、やはり特急、急行列車が優先。大正時代以前より走っていた木造車は、1950年代になっても普通列車用として多数残存していた。鋼体化客車は、国鉄線上より危険な木造車をすべて追放したことにより、安全上は特急も普通も変わりなく平等にしたという、エポックメーキングな車両なのである。
もっと客車にも注目を
どうしても、メカニカルで自ら走る蒸気機関車に注目が集まりがちである。「SL列車復活」がうたわれていても、蒸気機関車の動態復元にだけ力が注がれ、客車については「どうにかなるだろう」というような雰囲気も漂い、言及されないのは少々残念でもある。
肝心のお客が乗る車両がないと、地域振興を大義名分にSL列車を走らせる意味はない。その客車は蒸気機関車以上に少ない静態保存車を復元するか、新製しない限り「もうない」のが現実だ。
実際に乗車して旅をしたという意味では、蒸気機関車以上に客車のほうを身近に感じていてもおかしくはない。「引っぱられて走るだけ」と言わず、もう少し客車にスポットライトを当ててもよいのではないだろうか。
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