鉄道の衝突事故対策はどこまで万全なのか 衝撃を吸収する「クラッシャブルゾーン」とは

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昨年2月に川崎駅構内で起きた京浜東北線事故で、運転士と車掌が軽傷で済んだのは、E233系のクラッシャブルゾーンが有効に働いたためと考えられる。先頭車の扉の間隔が不ぞろいであることに注目
(写真 : tarousite / PIXTA)

鉄道にとって、最も危険な事故の一つは、自動車などの障害物、あるいは列車同士の衝突だ。2005年4月25日に発生した福知山線列車脱線事故のように、場合によっては多くの人命が失われてしまう。

列車の衝突事故対策は、これまでどのように進化してきたのであろうか。

事故が発生すると、車両に通常の使用時をはるかに上回る衝撃が加わる。ただ、装甲車ではあるまいし、いっさい転覆せず車体も壊れないよう、車両を無限に重く、頑丈にする訳にもいかない。1両80トン以上もある大型蒸気機関車であっても、置き石一つで脱線転覆する危険性があるのだ。

基本はいかに軽くかつ丈夫な構造とするか。たとえ衝突、転覆しても、中に乗っている生身の乗客、乗務員の生命をいかにして守るのか。車体の構造には、設計上の工夫がたびたび加えられてきた。

その工夫が生かされた実例として、2014年2月23日の深夜に川崎駅構内で起きた、京浜東北線の回送列車と工事用車両の衝突事故がある。先頭車と2両目が脱線転覆する大きな事故であったにもかかわらず、運転台にいた運転士と車掌は軽傷で済んでいる。

特別急行脱線事故で鋼製車へ転換

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車体構造の見直しの契機となった、89年前の特別急行列車脱線事故の現場。濁流が押し寄せた部分は、川ではないが後に橋梁が掛けられている

車両の設計面で事故対策が考慮されるようになった大きなきっかけが、89年前の1926(大正15)年9月23日に発生した山陽本線の特別急行列車脱線事故。

現在の広島市安芸区内にある安芸中野駅付近にて、集中豪雨によって築堤が崩壊したところへ東京発下関行き第1列車が突っ込み、脱線転覆した事故だ。この列車は「特別急行」で、当時の最高級列車だったためVIPが大勢乗車しており、34名の死者の中には現職の鹿児島市長なども含まれていた。

当時の客車は、基本的な骨組みや外板も木でできていた「木造車」であった。これが転覆の衝撃で粉々になり、割れた木が凶器のように乗客に突き刺さって、人的被害を大きくしたとされ、鉄道省は社会的な非難を受けた。そのため各鉄道は車両の鋼製化に本格的に乗り出し、木造車の製造を中止。昭和以降の客車や電車は骨組みや外板を丈夫で壊れにくい鋼鉄としたのである。

その後、戦前は、内装だけは工作しやすい木製のままとした「半鋼製車」がもっぱら造られた。これが戦後、昭和50年代まで多く残り、一般マスコミなどによって俗に「木の電車」と呼ばれ、木造であるとの誤解が多く生まれた。だが、安全対策上は木造車と半鋼製車はまったく異なるものである。

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