機関車より貴重?SL列車の「客車」が足りない 旧国鉄車両は老朽化、新車投入は高コスト
だが、今回、東武や大井川鐵道へ入線した14系も、青森―札幌間の夜行急行「はまなす」が2016年3月に廃止されたため、JR北海道で余剰となった、ほかに代わりはない貴重な"出物"。これを逃しては客車を入手できる機会はないと、両社が手を挙げたのであった。もはや使える客車自体が、日本には存在しないのである。
そうした状況の中で、JR西日本は2017年に入り、ついに「SLやまぐち号」用の客車5両を完全に新製するという決断を下した。同列車用の12系は内外装をレトロ仕様に大幅リニューアルしており、人気も高かったのだが、老朽化には勝てなかった。
新しい客車は35系と呼称され、最新式の走行・接客設備を備えるものの、戦前製のオハ31、オハ35、マイテ49(1等展望車)といった一般型客車を模した内外装となった。「レプリカ」と呼べるほど完璧に忠実なわけではなく、冷房の搭載や座席の改良など、現代の旅にふさわしい仕様が取り入れられてはいるが、昔懐かしい昭和30~40年代の客車の旅が十分に味わえるだけの舞台装置は整えられた。2017年9月2日より、この新車での運行が始まる予定である。
中小私鉄に客車新製は厳しい
JR西日本35系の新製費用は公表されていないが、動力を持たない客車とはいえ完全な特注品であるから、最新型電車(1両2億円前後?)に匹敵する値段になっているとも想像できよう。「SLやまぐち号」もそうだが、休日の1~2往復のみの運転が主で、通勤通学用車両とは異なり稼働率が低い観光用の車両は、これまでは設備投資の観点から、既存車両の改造でまかなわれることが多かった。35系への投資は画期的な判断とも言える。
けれども、こうした投資が行えるのも、鉄道会社に体力があり、当該列車に十分な収益力があればこそだ。株式を上場しているJR各社には新型客車も期待できようが、経営的な余力がない中小私鉄では大規模な投資は難しい。
それゆえ、当面は現在の客車を補修しつつ使い続ける必要も出てくる。大井川鐵道における14系導入のような措置も必要になってくるだろう。老朽化への対応は、客車も蒸気機関車も同じことである。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら