日銀が膨張させた「債券バブル」はどうなる? グリーンスパン元FRB議長の警告から考える

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長期金利と短期金利の関係を説明する考え方の基本的なものは、「純粋期待仮説」だ。この仮説は、たとえば、期間10年の国債を保有する場合と、そのほかの運用方法とで結果に大きな差があるということが明らかであれば、投資家はより有利なほうを選ぶはずだ。このため、有利なほうに資金が流れて差は縮小し、ほぼ同じ程度になるはずで、長期債の利回りは償還までの間の短期金利の平均(注1)となるはずだというものだ。

(注1)最終利回り
日本の金融市場では、以下の式による最終利回りが利用されることが多い。
最終利回り=(年間受取利子+(償還差損益/運用年数))/(投下資本)×100
償還までに受け取った利子を再投資して利子を得ることが可能なので、この国債に投資した場合の収益率を計算するには再投資する際の金利を予想する必要があるためだ。
経済学の教科書では、こうした問題を回避するために利付債ではなく割引債を使って純粋期待仮説を説明することが多い。この場合には、期間10年の割引国債の金利(R%)は、期間1年の割引債の金利(r_i)の10年間の幾何平均になっている。
(1+R/100)^10=(1+r_1 )(1+r_2 )(1+r_3 )⋯(1+r_9 )(1+r_10 )

もしも政府・日銀が目標としている年率2%の物価上昇が実現したとすれば、その後は金融政策を正常化し、実質の短期金利をゼロ%以上にすると考えられるから、名目の短期金利は2%程度以上になるだろう。仮に、5年後に2%の物価上昇が実現して名目短期金利が2%になるが、それまでは名目短期金利がマイナス0.1%だと想定すると、純粋期待仮説から導かれる10年国債の理論金利は、0.9%程度、20年債の金利は1.3%程度となる。

実際の経済では、2017年(平成29年)6月発行、2027年6月償還の10年利付国債(第347回)の表面金利は0.1%で、財務省の資料によると入札の結果、発行価格は100.48円、最終利回りは0.051%だった。8月23日の市場では、新発10年物国債の利回りは0.035%、20年債は0.550%、30年債は0.835%だった。現実の長期金利は理論値を大きく下回って(債券価格は上回って)推移している。

10年国債の保有は機会損失を生む

日銀が期待しているよりもはるかに長期にわたって物価が上昇せず、短期金利も上昇しないということになれば、10年国債を保有していても、毎年短期金利で運用していた場合よりも有利という結果になることは考えられる。しかし、5年後にでもデフレからの脱却に成功して短期金利が引き上げられれば、短期金利の運用のほうがはるかに有利で、10年国債を今保有することは大きな損失になる(大きな機会損失が生まれる)ということになる。

日本の多くのエコノミストが予想しているように、5年後でも1%程度にまでしか物価上昇率が高まらず、短期金利も1%にしか上昇しないという場合を考えても、10年国債の金利の理論値は0.4%程度なので、将来大きな機会損失が生まれるおそれがあるという結論は変わらない(注2)。

(注2)機会費用・機会損失
表面利率0.1%、期間10年の国債を100.48円で購入しても、10年後には元本分100円と利子1円(プラス利子の運用益)を受け取るので101円以上になり、投資額100.48円を上回るので損はしていないように見える。しかし、経済学の教科書はこのような比較は適切ではなく、100.48円を他の方法で運用した場合(機会費用)と比較すべきであると教えている。10年国債に投資した場合10年後に受け取る金額が投資額を上回っていても、機会費用を下回れば、機会損失が生じたと言うことになる。資産額が投資額を下回るということはなくても、他の投資家よりも利益が少ないという形で損失を被ることになる。
10年国債を保有し続けるのではなく、途中で売却してしまえば機会損失を免れることはできるが、売却された国債を購入した投資家が機会損失を被ることになる。こうした事態を多くの投資家が予想すれば、国債の価格は下落してしまうので、損失を実現することなしに国債を売り抜けることができる投資家はごくわずかだろう。
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