ソラコム社長、KDDIへの株譲渡の真相を語る 世界規模のIoT企業になる、そのために選んだ

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「既存株主のベンチャーファンドには運用期限があることを考えると、(ファンドが抜けるタイミングでほかの出資者を探す必要が出てくるので)経営する上での時限爆弾になる」(玉川社長)。だから次の選択肢はIPOかM&Aだと思っていた。

事業展開において大手の信用力は必須。冷静に判断し、KDDIに話を持ち込んだ(撮影:今井康一)

ところがソラコムはテクノロジー・ドリブン(技術主導型)のベンチャーである。開発費が先行するなどして四半期ごとの業績は大きく振れがちだ。

IPOにはより大きな資金が得られるメリットはあるかもしれないが、上場後に多くの株主から短期的な利益計上を迫られ、ややもすると経営判断がブレかねない。玉川社長はそのことを恐れた。

一方で、海外展開を進める中、日本の大手通信事業者がバックにいたほうが現地の事業者との交渉が進みやすい、ということが見えつつあった。

「ベンチャーと大手通信事業者とでは、新興国での信用力がまるで違う」(玉川社長)。新興国では、固定回線ではなく、一足飛びに無線通信が急成長している。新興国に食い込むうえで大手の信用力は垂涎の的だった。

通信会社の傘下入りが一番の選択肢

目の前には5G(2020年をメドに実用化される見通しの第5世代通信規格)への対応という技術的な課題も浮上してきていた。そこで、相手として最初に浮かんだのがKDDIだったという。ソラコムはKDDIと2016年10月に業務提携。IoT向け回線サービスを提供していた。KDDIが海外拠点を多く持つことも魅力に映った。

「5Gに対応したIoT通信プラットフォームを構築するうえで、設備がしっかり整っている企業と組む必要があった。5Gの技術情報をいち早く得る点でも、大手通信会社の傘下に入ることは意味がある」(玉川社長)。

KDDIがM&Aを積極化していることも大きかった。KDDIは2016年に発表した中期計画で、2016年4月〜2019年3月までの3年間で計5000億円のM&Aを実施すると、余剰資金の活用策をブチ上げていた。

実際にKDDIは2017年1月に日本産業パートナーズからネット接続業者のビッグローブを800億円で買収。ビッグローブもドコモの回線を使うMVNOだが、買収後もドコモ回線を用いており混乱がない。このこともドコモ回線でサービスを提供するソラコムにとっては安心感があった。

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