証券アナリストを淘汰する新規制の"殺傷力" 「ミフィッド2」で大量失業時代がやってくる

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ミフィッド2の影響は、アナリストの失業だけではない。世界の株式市場にとって大きな影響の出る可能性がある。

もちろん、プラス面もある。現在、運用会社は収益の1割前後をリサーチ料金として証券会社に支払っているもようだ。しかし、前述のとおり、支払いには投資成績に直結しない要素も暗に含まれている。今後運用会社がこれらを削って、低コストで高パフォーマンスを上げられるなら、おカネを託す投資家にとってはありがたい話だ。

おカネを払わない個人は情報が得られない

ただし、懸念材料も多い。まず、アナリストリポートの開示範囲が狭くなる可能性が高い。これまでは、一部の大手証券会社のリサーチリポートは、その証券会社の顧客でなくても、ネット上など何らかの形で読むことができた。しかし今後は、多額の支払いを行う顧客からのクレームが怖いので、顧客以外はリポートを見ることができないように工夫が凝らされるだろう。同様にアナリストのメディアに対するコメントも自粛が促され、個人投資家と機関投資家との情報格差が大きくなる可能性もある。

また、短期的な株価の変動を予想するようなリポートが増えそうだ。リポートの成果を、なるべくわかりやすい形で示す必要があるためだ。長期的視点に立った深い内容でも、すぐには投資収益に結び付つかないようなリサーチは減少する可能性もある。

また、小型株への対応は証券会社によって大きく分かれるだろう。外国人投資家相手の証券会社は、より多くの大手運用会社から評価される必要があるため、ニッチな小型株に関するリポートを圧縮するだろう。一方、国内系はむしろ小型株の分析を充実させて、外資系との差別化をはかると考えられる。

いずれにしても、証券アナリストは、世界的にリサーチ予算圧縮の憂き目に遭うと予想される。各業界担当3〜5人程度の精鋭のアナリストたちは、どの証券会社からもひっぱりダコになるものの、そうでない多くのアナリストは淘汰されていくだろう。

「変化する者だけが生き残れる」とは、進化論を唱えたダーウィンの言葉とされるが、証券アナリストも例外ではない。激変に適応していかないと、AIと戦う機会すら与えられずに淘汰されるかもしれない。

大槻 奈那 ピクテ・ジャパン シニア・フェロー

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おおつき なな / Nana Otsuki

東京大学文学部卒業。邦銀勤務の後、ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。格付け会社スタンダード&プアーズ、UBS証券、メリルリンチ日本証券にてアナリスト業務に従事。2016年1月よりマネックス証券 執行役員。2022年9月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授を兼務。共著で、『S&P 日本の金融業界』シリーズ(東洋経済新報社)、『リテール金融のイノベーション』(金融財政事情研究会)、『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)など。ロンドン証券取引所 アドバイザリーグループ・メンバー。政府委員を歴任。

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