「フランスの超天才」が予測する2030年の世界 ジャック・アタリ氏「国境はいずれなくなる」

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セマンティックウェブにより、検索エンジンと自然言語で会話できるようになる。したがって、助言を与える必要のある職業(医師、教師、弁護士など)に就く者にとって、セマンティックウェブは極めて便利だ。

人工知能とセマンティックウェブを組み合わせると、自動翻訳機になる。自動翻訳機があれば、世界中の専門家の見解を知ることができるようになる。そうなれば国境はいずれ廃止されるだろう。

3Dバイオプリンタを使って人体パーツを製造

ロボット工学は、さまざまなテクノロジー(ナノテクノロジー、人工知能、エネルギー貯蔵)の進歩の恩恵を受ける。ロボット工学の認知、音声合成、直立歩行、手先の器用さ(モノを把握する能力)は、大幅に改良される。ロボット工学も生命を不死へと導く人間の人工物化を加速させる。

ナノテクノロジーはナノメートル単位の新たな素材を生み出す。軽量化および耐久性を高めるためにカーボンナノチューブを既存の素材に加えると、その特性は一変する(外装材、抗菌剤、自己修復機能をもつ繊維、汚染浄化システム)。ナノテクノロジーの炭素繊維を用いれば、粉塵の侵入をほぼ防げる作業服が誕生する。

ゲノミクス、遺伝子治療技術、バイオテクノロジーは、世界のGDPの2.7%を占める。細胞治療により、幹細胞を用いて生体組織や臓器を再生できるようになる。大量のクローン動物がつくられる。マンモスなどの絶滅動物やタスマニアタイガーなどの絶滅危惧動物がクローン技術によってよみがえるといったことが当たり前になる。クローン人間に関する研究が急速に進み、これも不死の追求につながる。

バイオテクノロジーによっても、エネルギー、素材、ゴミ処理などの新たな形態が誕生し、3Dバイオプリンタを使って人体パーツが製造されるようになる。

『2030年ジャック・アタリの未来予測 ―不確実な世の中をサバイブせよ!』(プレジデント社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

神経科学は飛躍的な発展を遂げる。特に、身体の肉体的作用からも影響を受ける学習メカニズム、記憶、集中力、瞑想などに関する理解が深まる。認知、意識、感情に関する神経メカニズムの解明が進む。

脳細胞のさまざまな種類が明らかになり、脳の病気(アルツハイマー型認知症や統合失調症など)の発症において、それらの細胞が担う役割が明らかになる。さまざまなスケールで脳神経回路の詳細図が出来上がる。

神経細胞の活動をモニタリングする技術が開発される。脳の動きと、振る舞い、感情、思考、自意識との関係が確立される。神経科学においても、自意識およびそれをクローンに移す可能性に関する詳細な知識が得られるため、不死への期待が高まるだろう。

ジャック・アタリ 経済学者/思想家

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じゃっく・あたり / Jacques Attali

1943年アルジェリア生まれ。経済はもちろん、政治や文化芸術にも造詣が深く、あらゆる主題を網羅した文筆活動を行っている。ソ連の崩壊、金融危機、テロの脅威、ドナルド・トランプ米大統領の誕生などを的中させたことでも知られる。主な著書に『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』『危機とサバイバル――21世紀を生き抜くための〈7つの原則〉』(作品社)、『2030年ジャック・アタリの未来予測――不確実な世の中をサバイブせよ!』『海の歴史』(プレジデント社)など。

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