「打ち上げ花火~」が追求するアニメの表現力 新房総監督&東宝・川村Pが語る実写版との差

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川村:この作品が夏の大作だと思ったことはないんです。企画は4年前からで、『君の名は。』よりも早くに始まっているプロジェクトなんです。そもそも『君の名は。』も、もともとはまったくホームラン狙いではないですからね。何かのヒットを狙って作るようなことができないのがアニメーション映画だと思います。

企画は4年前、『君の名は。』よりも早かった

川村元気(かわむら げんき)/1979年生まれ。主な企画・プロデュース作品に、『電車男』(2005年)、『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)、『告白』(2010年)、『悪人』(2010年)、『モテキ』(2011年)、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、『バクマン。』(2015年)、『バケモノの子』(2015年)、『君の名は。』(2016年)、『怒り』(2016年)、『何者』(2016年)など。小説家としても『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』などの作品を発表しているほか、2018年春公開予定の劇場版『ドラえもん のび太の宝島』では脚本を手掛ける (撮影:尾形文繁)

――さらに今回は新房監督と「魔法少女まどか☆マギカ」や「<物語>シリーズ」を手掛けたアニプレックスさんも製作委員会のメンバーに加わっています。

川村:(社長の)岩上敦宏プロデューサーは、アニメーションの作り手として本当に天才的な人だと思っています。この映画でも、岩上さんに打ち合わせに参加していただいた。楽しい時間でした。打ち合わせには岩上さんのようなアニメーションの天才的なプロデューサーがいて、(原作者、脚本家、総監督として)映画監督が3人もいる。僕はどちらかというと、そういう面白い場所がつくれたらそこで8割くらいが決まると思っています。

少し無責任な発言ですが、そこから出てきたものを、より強くなるように、より伝わるようにしていくというのが、僕の仕事かもしれません。僕は今回、岩上さんと一緒にやらせていただいて、新房さんの文脈みたいなものを学ばせていただいた。それにしても岩上さんはおおらかですよね。

新房:そうですね。

川村:それでシャフトさんがスケジュールを守らなくなったという話もあるそうですが(笑)。

新房:本当にビックリするエピソードがあって。「化物語」なんですが、(放映が)落ちる寸前までいったことがあって。夜の11時くらいからの放送なのに、こちらは編集で6時か7時くらいまで作業をしているんですよ。(画が)上がってこないところは別のカットで埋めたりしたのですが、岩上さんは普通にそこにいるんですよ。「間に合わなかった場合、特番かなにか、差し替え用の別の番組を用意しているんですか?」と聞いたんですよね。そしたら「間に合わなかったらたぶん、来週から俺はここにはいない」と普通に言うから、ビックリした。この人は、すごい人だなと。腹のくくり方が。それからですね。彼に対してものすごい信頼を寄せるようになったのは。

――川村さんはどうですか?

川村:僕も腹はくくっていますよ。よくも悪くも映画だから、神経質になってもしょうがない。もちろん内容に関してはとことん神経質になって作る部分もあるんですが、基本的には作っている状態が面白いというか。それがすごく大事で。それがあれば、当たる、当たらないは時の運というか、時代とのマッチだと思う。そこを無理やりこじ開けてもどうしようもない。それが『君の名は。』で実感したことというか。

狙って打てたらいいんでしょうけど、そういうことじゃないんだなと思っているので、今回もとことん「自分たちが見てみたい、見たことのない映画」を目指して『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を作りました。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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