(第5回)将来進むべき方向性を見抜く
國貞克則
●SWOT分析の問題点
これまでのコラムでは人のマネジメントについて書いてきましたが、マネジャーにとっては将来の進むべき方向性を明らかにすることもまた大切です。つまり戦略策定です。戦略策定といえばすぐにSWOT分析という言葉が出てきます。SWOT分析とは、自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)、外部環境の機会(Opportunity)と驚異(Threat)を分析することによって、進むべき方向を明確にしていこうとするものです。よくできた手法ですが、このSWOT分析にはいくつかの問題点があります。まず第1番目の問題点は、SWOT分析は進むべき方向を明確にするために行うのですが、この分析自体が目的になってしまいがちなことです。
自社の強みと弱み、外部環境の機会と驚異を分析することに膨大な時間をかけてしまいます。自社の強みと弱みの分析といっただけでも、戦略面、人材面、財務面、商品の競合状態、技術面、サービス品質面と、分析すべき範囲は幅広い。また、外部環境の変化といっても、普通の人はマクロ経済がどう動いているかなどということはあまり頭の中で整理されていませんし、その動向を裏付けるデータも持っていませんから、だいたいが大手の研究機関や新聞社などが出している統計データや予測データを参考にすることになってしまいます。そして、膨大な時間をかけて分析をすることになるのです。これが第一番目の問題です。
そして、このようにして出てくる結果にもまた問題があります。同じ程度の規模の会社の人間がこのSWOT分析をすれば、どこの会社も似たりよったりの分析結果になってしまうのです。同じ程度の規模の会社ですから、中にいる従業員の頭の程度も似たりよったりです。外部環境の分析は前述のように外部の研究機関のデータなどを使っていますから、環境変化の認識は同じようなものです。また、同じ業種の同じような規模の会社であれば、自社の強みや弱みも主要な要素はほぼ同じようなものなのです。
3つの目の問題点は、分析では強みが生まれてこないということです。中小企業でSWOT分析をやると、だいたい強みが出てきません。それはそのはずです。特別な強みがあればすでに中堅企業くらいにはなっています。中小企業のままでいるのは、特別な強みがないからなのです。
大手企業でもあまり変わりはありません。SWOT分析をして将来の進むべき方向を考えようなどといっている事業部は調子の悪い事業部ばかりです。なぜ、その事業部が調子が悪いか。それは、他社にない特徴がないからです。つまり強みがないから弱いのです。
そんな事業部でSWOT分析をすると、強みだと自分で信じ込んでいる項目は出てきますが、「これは本当に強みですか?」と尋ねると、実は自分たちの誇りを語っているだけで、もっと良いものを持っていたり、もっとうまくできる会社が他にもある場合がほとんどです。当たり前です。だから負けているのです。
ある大手企業で強みを厳しくチェックしていくと、結局「社員の学歴の高さ」という項目しか残らなかったことがあります。しかし、その最後に残った、たったひとつの強みであると信じている「学歴の高さ」は、実は皮肉にも最大の弱みかもしれないのです。このように、弱い会社が強みの分析をしても強みは出てこないのです。
トピックボードAD
有料会員限定記事
ライフの人気記事