チェ・ゲバラだったら、今をどう生き抜くか 息子が語る没後50年経っても褪せない魅力

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進化が起きている一方で、変わらないものもある。それはこの国の精神的な部分、キューバという国の根底を支えている連帯感や兄弟愛、社会的正義といった基本的なコンセプトだ。こうした感覚はキューバ人にはとても重要なもので、これなしにはキューバという国は成り立たない。

――キューバは経済改革によって変わりますか。

チェの2人目の妻、アレイダ・マルチの長男であるカミーロ氏には、姉と妹、弟がいる(撮影:尾形 文繁)

私は専門家ではないが、私たちが今住んでいるこの世界は非常に不公平だ。キューバのような発展途上国は主に原材料の供給国だが、その価格はどんどん下がり続けている。

一方、先進国では安い原材料を使って価格の高い製品を作り、それを売って経済成長を図っている。原材料の価格が5%、10%と下がる一方で、最終製品の価格が同じペースで上がっているとしたら、その差はどんどん開いていくことになる。つまり、発展途上国の人間はこれまでも少ないおカネでより高いものを買わないといけない状況になっている。まさに「商業化した世界」だ。こんな状況にはいつか終わりが来るとは思うが。

キューバ人は社会正義を信じている

――そうした不公平や不平等が進んでいる世の中にあって、キューバの人たちはつねに幸せそうにしているように見えます。不遇の時代を生き抜くコツは。

うーん、それにはうまく答えられないが、各国の社会にはその土台になるようなものがあると思う。たとえばキューバは、多くの民族、文化、宗教が混ざり合ってできている国だ。私たちはそれを「Ajiaco(アヒアコ)」という呼び方をする。アヒアコとは、ジャガイモ、鶏肉などの具材が混じり合ったスープのことだ。一つひとつの素材にはちゃんと味があるが、それが別の素材と混じったときにまた違う味わいになる。

それが今のキューバの姿であり、キューバの強みでもある。移民を受け入れてきたおかげで、とても自然にこういう状態になった。さらに、キューバの場合、そこへ人を中心とした社会政策が加わっている。

それが理由かどうかはわからないが、私たちキューバ人は社会的正義を信じ、それを守ろうとしている社会に住んでいる、あるいはそういう社会を維持しようと努力していることは確かだ。もちろん、すべてがバラ色ではない。キューバは間違いも起こしてきたし、欠点もある。

――先ほどキューバ人は、社会的正義や連帯感を大事しているという話が出ました。こうした価値観は今後も変わらないと。

モノが豊富にある先進国であれば、多くのモノを他国に提供することができるだろう。が、キューバが考える連帯感は、「余っているもの」を提供するのではなく、キューバが持っているもの、ひょっとしたらキューバにも足りていないものを提供することだ。たとえば、ある国が支援を必要としていた場合、キューバは医師や大学教授、時には技術者を積極的に派遣する。もちろん、もっと支援できたらと考えているが、キューバは自分たちができる支援をやっている。

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