外国人観光客は「どの国」から呼ぶのが賢いか 脱アジア偏重で日本は「世界の観光大国」に

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その中でも特に狙い目は、8300万人という世界第3位をほこるアウトバウンド市場をもつドイツです。ドイツ人は旅行予算が世界一多いことでも知られ、海外の観光戦略では無視できない「上客」となっています。たとえば、タイはアジアにおける一番の観光大国ですが、ドイツ人観光客は年間83万6000人訪れています。

では、日本にやってくるドイツ人観光客はどうかというと、驚くなかれ、たった18万人しかいません。ビジネス目的を除いた純粋な観光客は、たったの7万3000人にすぎません。

なぜここまでドイツ人がやってこないのでしょうか。

理由としては、EBPMが徹底されていなかったので、この「弱点」自体に気づかなかったことが考えられます。観光地の他言語対応をみても、英語やフランス語はありますが、ドイツ語対応をしているところはまだ少ないことが、その事実を雄弁に語っています。

日本はなぜ「タイ」にも劣っているのか

現在、主たる訪日観光客は、中国、韓国、台湾、香港となっています。これらの国からの訪日観光客は、アジア随一の観光大国・タイと比較して152%と、非常に高い実績を誇っています。

アジア全体でみても、訪日観光客は訪タイ観光客の91.3%です。タイと比較すると、マレーシアからの観光客が少ないということはありますが、この実績はかなり高く評価できます。

つまり、アジアに限定すれば、日本はタイとまったく見劣りしない「観光大国」であると言えるのです。

しかし、アジア以外になると、途端にこの評価は変わってしまいます。

アジア以外からのインバウンドでみると、訪日観光客の実績は訪タイ観光客の45.5%にとどまります。この最大の要因は、訪日する欧州からの観光客が、訪タイする欧州からの観光客の28.3%しかいないということです。

そう言うと、タイに欧州からの観光客が多いのは「特定の趣味」をもつ人が訪れているからだと主張する人がいますが、それはなんの根拠もない「差別」にすぎません。

タイと比較しても、日本は先進国ですし、雪などの気候資源にも恵まれています。自然資源、食などにも「多様性」という強みがあります。このあたりを欧州に発信していくことで、タイを上回ることは可能だと思っています。

欧州からの観光客が増えれば、1人当たり支出を上げることも期待できます。全体的に、1人当たりGDPが高い国の人々が多く来るわけですから、「高級ホテル」など「おカネを使いたい人たちに合わせたサービス」を整備して、より単価を上げていくことも可能です。

また、欧州からの観光客は長期滞在する傾向がありますので、地域に落とす金額が増えます。これは地方創生にも役立ちます。

伝統文化や文化財を売りにした観光はどうしても京都や奈良、東京という地域に観光客が集中してしまう傾向がありますが、ドイツ人など一部の欧州人は、ビーチでのバカンスや、大自然のなかでのアクティビティを非常に好みます

このようなマーケットが確立できれば、文化財のない地方にも観光客が誘致でき、日本全体がまんべんなく「観光産業」の恩恵を受けることができるでしょう。

EBPMに基づけば、日本の観光戦略がすすむべき道が浮かび上がります。「次は欧州」なのです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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