叶姉妹も入れ込む「コミケ」の甘くない真実 50万人以上が集まっても大半は儲からない

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このように書くと、コミックマーケットは一般人が同人誌を販売し、稼ぐ場だと思うかもしれない。実際、1日で100万円単位の売り上げを上げる出展者がいることも確かだ。ただ、誰もがそんな恩恵にあずかれるかというと、現実はそんなに甘くはない。

コミックマーケットにおいて、参加者は全員が平等、たとえ叶姉妹であっても特別扱いはされない。出展ブースのサイズは長机半分だし、ブースに入れる人数は自分含めて3人まで。もちろん控え室などはない。段ボールの開封からポスターの貼り付けまで、準備はすべて自分の手で行い、開場後は室温35度を超える酷暑の中、ひたすら立ちっぱなしで自分の作品を売り続ける――それがコミックマーケットの出展者の一日だ。セレブで有名な叶姉妹のイメージとは、あまりに懸け離れている。

実は、コミックマーケットに出展したことがある芸能人は叶姉妹だけではない。2014年には演歌歌手の小林幸子さんが、2016年にはT.M.Revolutionの西川貴教さんが出展し、一般人に交ざって自作のCDやグッズを販売している。

コミックマーケット出展者の大半は赤字

あまり知られていないことだが、コミックマーケットの出展者の大半は赤字だ。コミックマーケット35周年記念アンケートによれば、5万円以下の黒字もしくは赤字の出展者が全体の8割を占める。それも仕入れたものではなく、「自分が思いを込めて作った作品を売った結果」だ。

出展者は同人誌1冊を書き上げるため、数十時間を普段の生活の中からひねり出す。ストーリーを考え、構成を考え、原稿を書き、レイアウトを決め、編集し……その手間と苦労は相当なものだ。そこまでして作り上げた作品でも、売れるかどうかは当日になってみなければわからない。売れなければ大量の在庫を自宅に送り返すことになる。

赤字の割合を見ればわかるとおり、大半の出展者は思ったように売れない。実際、参加者の過半数は100部を売り切ることができないというデータがある。ちなみに筆者も8年ほどコミックマーケットに出展し、30種類以上の同人誌を発行したが、100冊以上売れたのは2~3種類だった。

貴重な時間を費やして机に張り付き、産みの苦しみを味わい、自腹を切って印刷費を払って本を作る。夏にせよ冬にせよ、過酷な状況で一冊一冊手売りする。売れても売れなくても自己責任……興味のない人から見れば、異常としか言いようのない世界だろう。しかし、コミックマーケットの出展申込者は年々増え続けており、毎回抽選を行っている状態だ。

なぜ、そんなことが起こるのか? 答えはいたってシンプル。「それでも、表現したいから」だ。

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