「所有者不明土地」が九州の面積を超える理由 過疎化や人口減少に制度が対応できていない
合計面積は約93万ヘクタールに上り、日本の全農地面積の約2割に達していた。そのうち、農地として活用されていない遊休農地の面積は約5万4000ヘクタールで、遊休農地面積全体の約4割を占めた。
こうした未登記農地でも実際農業が行われているが、たとえ現時点では問題はなかったとしても、今後、現在の所有者が離農した場合、先代にさかのぼって相続人調査を行い、登記書き換え手続きが必要となる。農地活用の大きな妨げになることが懸念される。
所有している森林の場所が「わからない」
林業の現場でも問題は深刻である。
森林では、所有者の死亡後、相続登記がされないことで、林道の整備や間伐の実施などについて相続人の同意を得るにも連絡がなかなかとれず、管理上の問題となるケースが多発している。都市部に暮らす相続人は、相続した森林の所在すら知らないことも少なくない。
たとえば、石川県小松市が市内の森林所有者(市外・県外在住者を含む)を対象に2015年にアンケート調査を行った(発送総数/7367通、回答数2554通、回答率34.7%)。そのうち所有者の12.9%にあたる950個人・団体にはそもそも郵便が届かず差出人戻しとなり、所在が不明となっていることがわかった。所有している森林の場所が「わからない」とする回答も570人(23.0%)に上った。
自治体の公共事業の用地取得でも、同様の問題は起きている。
「用地取得ができれば工事は7割済んだも同じ」といわれるように、用地取得の交渉や手続きの大変さは関係者の間でしばしば指摘されてきていた。
この問題については、これまで本格的な実態調査はほとんど行われておらず統計データは少ないが、相続未登記の土地が公共事業の大きな妨げになっていることは、多くの基礎自治体の現場でよく知られている。
たとえば、全国町村会が2013年7月に決定した「平成26年度政府予算編成及び施策に関する要望」のなかでは次のように要望が出されている。
「相続人が多数存在し、かつ、相続手続きが一定期間(少なくとも三世代以上)なされていない土地を、地域住民が生活していくうえで不可欠な公共用地として取得する場合は、簡略な手続きで行えるよう法的整備を」と。
なぜ、こうした「権利の放置」が起きるのだろうか。
国土交通省が2014年に行った調査によると、全国4市町村から100地点ずつを選び、登記簿を調べた結果、最後に所有権に関する登記が行われた年が50年以上前のものが19.8%、30~49年前のものは26.3%に上った。
つまり、親から子へ代替わりが行われるまでの1世代を30年と考えるならば、1世代以上、所有者情報が書き換えられていない登記簿が全体の半分近くを占めているのである。相続未登記は、いまに始まったことではない。過去数十年にわたり蓄積されてきているのだ。
なぜ、相続登記が長年放置されるのか。
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