「所有者不明土地」が九州の面積を超える理由 過疎化や人口減少に制度が対応できていない

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その理由としてまず考えられるのは、「登記をしなくても何も困らない」からというごく単純なものだろう。相続登記の手続きは、土地の売却や、住宅ローンを組むために抵当権を設定するといった、必要性が生じたときに行われることが多い。地域で農業用水路や農道などの整備を進めるにあたり、権利移転のために登記が必要となったときなども、手続きが進むきっかけになる。

そのため、親の家を相続してそのまま自分が住み続ける、あるいは、親の土地を現状のまま利用し続ける分には、未登記のままでもさしあたって支障はない。

特に地方では、「相続登記をしていなくても、近所の人たちは『あれは○○さんの山だ』ということをわかっている」「ここの土地は代々うちの家族が住んでいることは、登記しなくても明らかだ」という認識が強い。手間と費用をかけて相続登記する必要性を感じないのである。

相続した親の土地の登記をしていないと話す60代の男性は、「田舎では昔は家を自己資金で建てた。そのため、ローンを組むために登記を自分の名義に書き換えておく、といった手続きも不要だった」という。

相続登記は8件という地方の自治体

登記をしないことによるデメリットが、とりわけ地方では少ない。当面、相続登記をしていなくとも不便はなく、登記の手続きも「面倒だな」と言っている間に、そのままになっていく。そもそも、法務局が遠く簡単には行けない地域も多い。相続未登記はこうして目に見えないところで蓄積されてきたのである。

筆者の聞き取り調査では、ある地方の自治体(固定資産税の納税義務者総数が約3万人)では、2011年(1年間)の市内土地家屋所有者の死亡者数468人のうち、2012年12月末までに相続登記が行われたのはわずかに6件。これは1年さかのぼってもほとんど変わらない。

2010年(1年間)の同死亡者数409人のうち2012年12月末までに相続登記がなされたのはわずか8件だった。

大都市圏に暮らす人々にとっては、こうした状況は想像しづらいかもしれない。資産価値の高い都市部の宅地であれば、登記手続きをしないことは権利を守るという観点から考えにくい。宅地は家計資産の5割以上を占める重要な財産である。「なぜ土地の登記が放置されるのか」ということが理解されないかもしれない。

全国の私有地の2割はすでに所有者の把握が難しくなっている。面積に当てはめると、四国はもちろん、九州を上回る規模だ。

現在の日本の土地制度は、明治の近代国家成立時に確立し、戦後、右肩上がりの経済成長時代に修正・補完されてきたものだ。地価高騰や乱開発など「過剰利用」への対応が中心であり、過疎化や人口減少に対応した制度にはなっていない。「所有者不明化」は、こうした社会の変化と現行制度の間で広がってきた。

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本来、個人が維持管理しきれなくなった土地は、できれば共有したり、新たな所有・利用者に渡ることが望ましい。

だが、現状、そうした選択肢は限られる。地域から人が減る中、利用見込みや資産価値の低下した土地は、そのまま放置するしかない。「いらない土地の行き場がないんです」とは、ある自治体職員の言葉である。

親族や自らが所有する土地をどう継承していくかは、個人の財産の問題であり、さらには地域の公共の問題へとつながっていく。「所有者不明化」問題の広がりは、人口減少時代における土地情報基盤のあり方、さらには管理と権利の継承のあり方について、根本的な課題を提起している。

吉原 祥子 東京財団研究員兼政策プロデューサー

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よしはら しょうこ / Shoko Yoshihara

1971(昭和46)年神奈川県生まれ。1994年東京外国語大学タイ語科卒。タイ国立シーナカリンウィロート大学へ国費留学。米レズリー大学大学院修了(文化間関係論)。1998年より東京財団勤務。論文『「土地の『所有者不明化』――自治体アンケートが示す問題の実態」(2016年)、共著に自然資本研究会編著『自然資本入門―国、自治体、企業の挑戦』(NTT出版、2015年)ほか。

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