ハーバード大に「人種差別疑惑」が生じる現実 人種問題はあまりに複雑になってしまった

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そして悲しいことに、ハーバード大の卒業式のような事例は氷山の一角でしかなく、誰かの意図が介在した、事実とは異なる大騒ぎは、現在のアメリカでは後を絶つことを知らないという状況だ。特定のバックグラウンドを持つ人同士が集まったり、特定の宗教を何らかの理由で信仰したり祝福したりする個人の自由が、心ないフェイクニュースにより、何でもヘイトとひも付けられてしまうことは、実に嘆かわしい。

私の友人の兄であるジョージア州アトランタに住むマルコムさんは、昨今のマイノリティに端を発する社会摩擦に心を痛める1人だ。ポーランド系ユダヤ移民の彼の父は、ナチスドイツ政権下のヨーロッパで、強制収容所生活を経験している。大戦終了後、苦境に立たされながらもアメリカに移住し、会計士として成功を収めた父のことを、マルコムさんは誇りに思っている。

そんな彼には、アフリカ系アメリカ人の元妻との間に、娘が1人いる。大学生になった娘とは定期的に過ごすことになっており、この夏休みにも1カ月ほど、娘と過ごすことを楽しみにしてきた。娘は父方のルーツであるユダヤの歴史、母方のルーツであるアフリカ系移民の歴史にも明るく、この夏はアトランタ市内にある市民団体のいくつかで、マルコムさんと共にボランティア活動をする予定だった。

親子の間に立ちはだかる「人種」の壁

ところが、親子で市民団体の活動に参加しようとしたところ、2人の間に立ちはだかったのは「人種」の壁だった。2人は親子だが、肌の色が異なる。マルコムさんが娘と共にアフリカ系市民団体の集会に参加しようとしたところ、「娘の参加はよいが、あなたは黒人ではないので、今回は遠慮してほしい」と断られてしまったのだ。

彼らは以前に、その団体の活動に参加したこともあるので、その旨を伝えてみたが、「新しい政権発足後、マイノリティ問題や差別問題は非常にセンシティブになっている。あなたがユダヤ人でなければまだよいが、アフリカ系の私たちが受けてきた差別とあなたの受けてきた差別が異なる以上、誰が何を言い出すかわからない。社会を刺激しかねない行動は双方にとってよくない」と説明を受けた。

断った相手も申し訳なさそうにしていたそうだが、マルコムさんは「自分の娘のルーツを、親の自分が誇りに思うのは当然のこと。去年まではオッケーだったことが、政権交代でできなくなった事実に驚愕している。悲しい歴史をそれぞれ持つ者同士が、今の分断を未来につなげないために、共に手を取り合うことにすら慎重にならざるをえないのは、おかしくないか」と納得していない。

もう1人例を挙げよう。サンフランシスコ郊外に住むジョージさんは「誤解をおそれずにいうならば、今の時代、この国ではマイノリティであるほうがいい」という極論をもつ人物だ。

彼はいわゆるアングロサクソン系白人で、企業経営者。100人近くいる従業員には白人も黒人もアジア人もいる。性的マイノリティの従業員も数名雇っており「私はリベラルではないが、いかなる差別もする人間ではない」と公言している。先の選挙ではトランプ大統領に1票を投じた。ちなみに彼の暮らす地域では、保守でトランプ大統領支持は少数派だ。

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