48歳振付師がホームレスと踊り続ける理由 路上生活で生まれた表現、10周年ツアー敢行
「ダンスをしませんか」とおじさんに声をかけても、断られてしまいます。そこで、「ビッグイシュー」(ホームレスが雑誌を販売、売り上げの一部が収入になる仕組みで自立を支援する会社。イギリス発祥)のスタッフに声をかけ、協力してもらいました。雑誌を販売する現場に通って話をしたり、アオキさんが踊って見せたりしました。
アートとして評価、五輪のリオにも
3年前、運営母体「アオキカク」は社団法人になりました。NPO法人「ビッグイシュー基金」からサポートを受け、週に1~2回、都内の公共施設を借りて練習。基金から場所代やご飯代を提供してもらっています。電話を持たない人が多いので、練習の時に予定を書いて渡したり、ビッグイシューの事務所に掲示したりして伝えます。
昨年は、オリンピック・パラリンピックが開かれたブラジル・リオに招かれ、アオキさんとメンバー2人が踊りました。オーストラリアやアメリカなど各国から、ホームレスとアートを組み合わせて活動する団体が集まり、パフォーマンスを見せたりワークショップをしたり。「歌や芝居をホームレスと稽古して、発表する団体が多かったです。取り組みの結果、自信がついて就労につながると聞きました。東京五輪の時も、集まりたいです」
これまで40人以上が関わってきましたが、途中で連絡がつかなくなった人も少なくありません。初回のメンバーのうち今も続けているのは1人。時々、炊き出しや公園で踊って見せて、メンバーをスカウトします。今年、参加しているメンバーは、40代から69歳まで8人。路上生活の経験者や生活保護を受けている人、ビッグイシューの販売員です。
「健康のため」「思い切り体を使って死にたい」など、メンバーの動機は様々。最初は、ホームレスのダンス公演に賛否両論がありました。アオキさんは「ダンスを練習し、お客さんに見てもらう。その結果、自尊心が持てて目の輝きが強くなる。生きる力が出てくることが大事」と考えています。
「目を背ける人も多いけれど、そうなった背景を聞くと、それぞれに事情がある。誰しも、ホームレスになる可能性がないわけではありません」。厚生労働省の調査によると、ホームレスは全国におよそ6200人(2016年)で前年より減っています。「見かける機会は減ったかもしれませんが……。公園で炊き出しがあると200人ぐらい来ますし、少なくなったという実感はないですね」