48歳振付師がホームレスと踊り続ける理由 路上生活で生まれた表現、10周年ツアー敢行
それから音楽に合わせ、発表する作品を通して踊ってみました。ソロやアオキさんとのからみ、全員の出番と見せ場が続きます。お互いの踊りは、真剣に見合っていました。
ダンスのジャンルはと言えば、コンテンポラリー。自由に表現する創作ダンスで、振付は力強いです。音楽に乗っていてスピード感があり、「おじさん」というよりは、まさにダンサー。体を自在に使い、表情も豊かに30分、踊り続けました。そのほかアーティストと共演する作品の練習もあり、かなりの運動量です。
作品の作り方を聞くと、独特です。アオキさんが、一人ひとりに「この人の体がどんな風に動くか見てみたい」とイメージした言葉を渡します。例えば、Wさんには「強い丸まり 弱い丸まり 斜めにひらける 走る光 さす光 小さいけもの」。本人が動いて、踊って見せて、おもしろいものを取り入れ、みんなと動いてみたり、繰り返しの振付にしたり。その上で、全体のテーマを決めてストーリーを作るそうです。
グループ名は「新人H ソケリッサ!」。Hは、ヒューマン、ホームレス、ホープ。ソケリッサは「さあ行け」という意味を込めた造語です。
順調なダンサー人生を、9.11で再考
アオキさんは、なぜホームレスのメンバーと踊り続けているのでしょうか。
18歳のころ、マイケル・ジャクソンに憧れてダンスの道へ。20代は仕事に恵まれ、タレントのバックダンサーやプロモーションビデオの振付で活躍。順調に生活できるようになりました。その後、ダンスの本場であるアメリカに渡った時、9.11の同時多発テロに遭遇。「事件を目の当たりにして、表面的なことに価値を置いた生き方にショックを受けました。自分の存在は何だろうと考え始めました」
もやもやしていた2005年ごろ。新宿でミュージシャンの路上ライブに目を止めると、隣で寝ているホームレスの男性がいました。全く周りを気にしない様子にひきつけられました。「挫折を味わった人が、鍛えられた体で表現する踊りを見てみたい」。アオキさんは、原始的な生活に近いおじさんたちの生き方や感覚に興味がありました。「太陽が昇ったら起きる、おなかがすいたら食べ物を探す、暗くなったら心細く感じるという感覚が、現代ではなくなってしまっているから」