「残念なエントリーシート」に欠けている視点 自分の歴史を書くだけでは説得力がない

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〈志望動機=改善例1〉
学生時代、無料塾で小学生を教えていた。親が十分な収入を得られていないため、子どもたちは塾に通って補習する余裕がない。そうした子どもたちのために、寄付や補助金を利用して無料の塾を開いているのだ。私はそこでボランティアとして、算数と理科を教えていた。

最初の例のような概念的な話がより具体的になっていることがわかると思います。自分のヒストリーを絡めるということは、概念論ではなく肉体に近い言葉で表現するということです。こうすれば質問も、ボランティア活動に対する思いなど具体的な話に落ちてくるので、答えやすくなります。さらに、「子どもの貧困を救いたい」「教育の機会を与えるべきだ」という部分も自身のエピソードを交えて続きを書いていきます。

ESの先にはそれを読む採用担当者がいる

〈志望動機=改善例2〉
しっかり教えると子どもたちは理解できる。それは親の収入とは関係ない。学習の機会を得られるかどうかの問題だと思った。昨年初めて無料塾から、国立大学の付属中に合格した子どもがでた。初めは落ち着きがなく勉強への興味も持てなかった。しかし、分数の計算がわかるようになってから学習態度が変わった。最後までやり通す根気も出てきた。

貧困が原因で学習の機会を得られないために、勉強の意欲を失わせてはならないと思った。これを切っ掛けに、私は学習機会を増やすための教育事業を生涯の仕事としたいと思い、御社を希望しました。
『マジ文章書けないんだけど ~朝日新聞ベテラン校閲記者が教える一生モノの文章術~』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

〈改善例1、2〉を通して書けば、十分な志望動機になるのではないでしょうか。ESを書く際に概念的、抽象的になりがちな志望動機は、あなたのヒストリーに絡めて丁寧に書くことで立派なストーリーになっていきます。こうしたアプローチをすると「学生時代、特に力を入れて頑張ったこと」などという設問にも応用が利きます。

さらに、あなたの長所・短所を書く際にもこのエピソードを軸に考えていくことができます。ESの先には、それを読む採用担当者がいます。採用担当者が「なぜ?」「どうして?」と思うことを面接で聞いていきます。書いてあることが理解できなければ、その説明に時間を費やすことになります。そうした疑問をできるだけ最小限にしてあなた自身の魅力を語れるように、つまり質問を自分のフィールドに持ち込むようにしていくことが重要です。

これからは「プレゼンの時代」です。会社に入って商品・企画の説明をするときも、「なぜ」「どうして」これを世に送り出すのかというストーリーが求められます。就活は、あなたのストーリーを「プレゼン」することにほかならないのです。

前田 安正 未來交創代表、文筆家、文章コンサルタント

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まえだ やすまさ / Yasumasa Maeda

早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。2019年2月に文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。「情報としてのことばを伝える」をテーマに、企業・自治体で広報文の研修・文章コンサルティングなどを展開。文章コンサルタント養成講座「マジ文アカデミー」も開催。

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