45歳男性がゴミ屋敷で怒りをブチまける事情 「私のような障害者に必要なのは公助だ」

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母親は糖尿病による壊疽(えそ)が進んでいたため、入院してすぐに足の指を切断する手術を受けたが、術後の状態が悪く、間もなく亡くなった。2011年3月、東日本大震災の発生からちょうど1週間後のことだったという。

ふと、手塩にかけたであろう一人息子から強制的に入院させられた母親の心情を思った。タイチさんに、お母さんは住み慣れた自宅で最期を迎えたかったのではないかと問うと、彼はこう言って、自身の判断の正しさを強調した。「そんなことはありません。地震で、母が座っていたソファの上に大量の本が崩れ落ちたんです。あの日、私が入院させなければ、母は震災で死んでいたと思います」

「アスペルガー症候群」であることが判明

2015年、タイチさんに大きな転機が訪れた。かかりつけの医師に勧められて受診した医療機関でアスペルガー症候群と診断されたのだ。自分はほかの人とどこかが違う。なぜ? 何かがおかしい――。長年、そう思い続けてきた彼は、大学に再度入学した頃から精神科などを受診。一足先にうつ病の診断は受けており、その後、新たにアスペルガー症候群であることが判明したのである。

アスペルガー症候群は、知的障害のない自閉症とも言われる。疲れやすさは典型的な症状のひとつで、診断が遅れるとうつ病などの2次障害を引き起こすこともある。タイチさんは「仕事が長続きしないことや、周りとコミュニケーションがうまく取れないこと――。障害が原因だったのだとわかり、納得できたことがたくさんありました」と言う。私自身、彼の障害のことを知り、それまでの話ぶりに合点がいった部分があったし、なぜかホッとした。

しかし、私が町内会や親戚との行き違いも障害と関係があるのかもしれないと水を向けると、タイチさんは表情をこわばらせ、「彼らとのことは別問題。絶対に許せません」と声を荒げた。普通以上の知的能力のある彼には、対人関係のトラブルに見舞われやすいのは障害のせいだとの自覚がある。しかし、個別の問題になると、頑として障害との因果関係を認めない。アスペルガー症候群やADHD(注意欠陥・多動性障害)などの人たちと関係を築くことの難しさは、たぶん、このあたりにもあるのだろう。

障害がわかって安心した面はあるものの、現実の厳しさは変わらない。
タイチさんは今、国などが設置を進める「障害者就業・生活支援センター」を通して正社員の仕事を探しているが、この2年間で臨んだおよそ30社の採用面接はすべて不採用。彼が正社員にこだわるのは、いつかは結婚して子どもを持ちたいとの希望があるからだが、最近は、相談員から非正規雇用での就労も検討するように促されている。

現在のパート勤務はフルタイムではないので、毎月の手取りは約8万円。アスペルガー症候群の診断後に受け始めた障害年金の月6万5000円と合わせても生活はカツカツで、「このままでは野たれ死ぬか、自殺するしかないですよ」と言う。

しかし、出費の内訳を聞けば、毎月、書籍収集に約1万円、電気代だけで約2万円がかかっているほか、郵便受けの修理に約20万円、毎年の正月にはおせち料理や松飾り、鏡餅の準備などに出費がかさむという。また、タイチさんの長財布が厚さ5センチほどに膨らんでいるので、中を見せてもらうと、金券ショップで格安で買ったという百貨店などの商品券がぎゅうぎゅうに詰まっていた。

次ページタイチさんの主張とは?
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