86人死亡のテロ事件から1年、フランスの今 トラック暴走の現場、避暑地ニースを訪ねた
地中海の恵み、ムール貝の白ワイン蒸しが人気の別のレストランに入ると、日本アニメの大ファンだという店員が興奮ぎみに話しかけてきた。
「久々の日本人客だよ! あの事件後、特に日本人の観光客が激減したからね」
フランス人のテロに対する意識とは
確かに、ニースの街を歩いていて、日本人観光客の姿はほとんど見かけなかった。ツアーの旗を掲げて旅行していたのは、ヨーロッパやアメリカからのバカンス客が目立っていた。フランスのテレビ局の特集コーナーでは、日本人観光客が減っていると嘆いている観光地の様子が放映されていた。
クロアチアから来たという観光客に不安はないか話を聞いてみると、「そんなことを言ったら世界中のどこにも行けないじゃないか。いまや、テロは世界のどこでだって起こりかねない、日本も同じだろ? だから、行きたい国に行って、バカンスを存分に楽しむ。テロに振り回される必要はないんだ」ときっぱりと返された。
さらに、当のフランス人たちも「正直、日常生活でテロを警戒しようがない。だって僕らはフランスに暮らしてるんだから。恐れたって仕方がない。ビクビクしながら暮らすことこそ、テロに屈するということで、奴らの思うツボ。テラスでも食事を楽しみ、ライブ会場で音楽も楽しむ。それがフランス人なのさ」と、大きく構えている。
同時に、市民のテロに屈しないというこうした強い意志の影には、フランスの強固な厳戒態勢があるのも事実だ。事前の摘発や警備が難しい、ソフトターゲットを狙ったローンウルフ型のテロが頻発する中で、フランス国内だけでも今年に入ってすでに、多くの死傷者が出る可能性があるテロを7件防いだ、とマクロン政権は明かしている。
テロから年が明けた今年5月、フランスは世界的にも大きく注目された大統領選で、39歳のエマニュエル・マクロン氏がフランス史上最年少で極右政党のマリーヌ・ルペン氏を破って就任した。7月14日には、厳重な警備態勢が敷かれる中、遊歩道付近で追悼式典が行われ、フランソワ・オランド前大統領やニコラ・サルコジ元大統領らも出席し、犠牲者一人ひとりの名前と年齢が読み上げられ、黙祷が捧げられた。
マクロン大統領は「国民の怒りは理解している。国民を守るため、あらゆる対策を行う。テロに対して絶え間なく立ち向かう義務がある」と述べ、テロ対策を強化する姿勢を強調した。現在、ニースでトラックが暴走した遊歩道では、車止めの設置など安全対策が急がれ、遊歩道沿いの大手外資系ホテルは監視カメラの数を大幅に増やして対応に当たっている。同時テロが起きたパリでは、エッフェル塔の土台の周囲に防弾ガラスの壁を設置する準備が進んでいる。
マクロン大統領は、パリ同時テロ以来発せられている「非常事態宣言」を今秋にも解除する方針を明らかにしているが、テロの脅威が依然として消えていない中で、新たなテロ対策法案を早期に成立させる構えだ。
ニースの海岸にビニールシートを敷き、子連れでピクニックをしていたニース出身の男性は言った。
「本当はこんな警戒態勢の中で暮らすのは息苦しいよ。でも、そういう時代なんだ。僕の小さい頃は、こんな緊張感はなかった。悲しいことだけど、これからもっとこの緊張は増すんだろう。でも、暮らしていくしかない」
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