86人死亡のテロ事件から1年、フランスの今 トラック暴走の現場、避暑地ニースを訪ねた

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実は、ニースには人口約34万人のうち6万人のイスラム教徒が住んでいる。しかし、パリなどの大都市と比べ、保守的な土地柄の南仏では移民に対する差別意識を持つ住民も存在し、テロ事件後にはイスラム教徒に対する反発心なども芽生えているという。

店長がテロ事件直後にスマホで撮影した写真には、容疑者が暴走させたトラックが写っている(写真:筆者撮影)

あまり注目されていないが、事件の犠牲者のおよそ3割はイスラム教徒だった。フランスに根を下ろし、フランス語を話し、懸命に生活を築いてきた移民たちの思いは複雑なようだ。

店長は言った。「フランスでこうして地道に、地域に溶け込めるように懸命に生きてきて築き上げてきた暮らしがある。ニースの町が大好きだ。だからこそ、悔しい」ニースへの愛情があるからこそ、この地を去ることはないという。

店長自ら撮影したと言って、スマホで見せてくれた写真には、レストランのほぼ目の前で止まっていた容疑者が暴走させたトラックが写っていた。急遽、閉めた店のテラス席の写真には、鉄格子越しに、つい先程まで客が楽しんでいたディナーの残りが当時の無残な様子を思い返させる。海沿いに流れていた幸せなひと時が、暴走するトラックの前に、一瞬のうちにぶち壊されたことがうかがえる1枚だった。

店長は今でも、あの時に聞いた大きな銃声が耳から離れないという。

店を閉めた直後、客が食べていたディナーの残りが鉄格子越しに見える(写真:筆者撮影)

フランスで暮らすイスラム教徒の複雑さ

容疑者が住んでいたのは、ニース郊外で、アフリカからの移民が多く住むエリアだった。そのエリアの住民にとって、高級リゾート地であるプロムナード・デ・ザングレは近くて遠い場所だという。ニースで暮らすイスラム教徒の女性はこう明かした。「遊歩道沿いのレストランは、一度も足を踏み入れたことがないわ。どこも高いから、私たちには手が届かない。でも、海は自由に行き来できるから、お店には入らなくても、こうしてリゾートの雰囲気だけでも毎年味わいに来るのよ」。

テロから1年が経った今年7月14日、フランスのテレビ局では、ニースのテロの犠牲者として母を失ったイスラム教徒の遺族女性のインタビュー特番が放映された。モロッコからニースに移住した女性の母親は、あの夜、花火の見物に出掛け、被害に遭うことになってしまったという。女性は今、過激な思想に染まってしまう同胞の若者たちに、同じ立場から諭す活動を学校などで広げ始めているそうだ。

大手テレビ局が、イスラム教徒の被害者遺族に注目し、その活動を取り上げて放映することは、意義深い。

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