86人死亡のテロ事件から1年、フランスの今 トラック暴走の現場、避暑地ニースを訪ねた
目の前に広がる海岸には、青と白のビーチパラソルが無数にひしめき合い、鮮やかな色の水着姿の男女が照りつける太陽のもと、無防備に体を焼いている。子どもたちは歓声を上げながら砂遊びに興じ、観光客たちは美しい海をバックに記念写真をおさめている。そこは、多数の犠牲者を出したテロがあった現場であることを感じさせないほど、一見、幸せな日常があふれているように見える。
だが、注意深く見ていると、バカンス客に交じって、迷彩柄の制服に身を包んだ兵士が物々しく警備に当たっている。そのなんともミスマッチな光景が、かえって今のフランスの状態を如実に表しているようだった。
テロのトラックが目の前で止まったレストラン
夜、プロムナード・デ・ザングレ沿いにある、まさに容疑者が暴走させたトラックが目の前で止まったレストランに入ってみた。道路に面したテラス席は、21時を回っているにもかかわらず、煌々と照らされ、ほぼ満席。初老の夫婦が仲睦まじく白ワインを飲んでいる。聞くと、ニースで生まれ育った、生粋のニースっ子だという。単刀直入にテロ事件の影響を聞いてみた。すると、奥さんは熱を込めて語り始めた。
「恐れていてどうするの! 私たちはできるかぎり普通の生活を送らなきゃいけないのよ。だってここに住んでるんだもの! 日常を続けるしかないのよ、だから楽しく今までどおり過ごすことがいちばん大事なの」
ここに店を開いて7年だという店長も、話に加わり同調する。「ニースはすばらしい街だ。今はもうすっかりもとどおり、頻繁に店でのパーティなんかも開催しているよ。今週末にもやるから、良かったらどうだい?」。
なんとも、あっけらかんとした陽気な雰囲気だが、それだけテロに屈してはいけないという強い気持ちも感じさせる。
店長はアフリカ南西部に位置するアンゴラ共和国から両親と移住してきたアフリカ系の移民。7年前にこのレストランをオープンさせ、異国の地ニースで地道な成功を収めてきた。
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