「日本車とドイツ車」、デザインの決定的な差 新しいからといってそれが良いとは限らない
和田:そうですね。ただ時代は変わりました。これからもそれを続けるのは危険です。ある時「A5をクラシックと言われて心外です」とワルターに伝えたら「それでいいんだよ」と言われたんです。「それこそアウディがアウディを超えたという評価なんだよ」と言われて気づいたんですよ。クラシックであることは素晴らしいことなんだと。
岡崎:それに対して、新型A5や新型TT、それに最近のBMWにも感じるんですが、どうしたいんだろうなと思うんです。
和田:それは私の最近のドイツ車に対する印象と同じです。
岡崎:和田さんに聞いてみたかったんですが、最近のジャガーはどうですか?
和田:基本的なプロポーションはいい線いっていますし、余白も使えている。あたたかみのある面の使い方もできている。だがまだジャガーとしては物足りない。というのもジャガーがもっているヘリテージは非常に大きいですから、もっとやれると感じるんですよ。
岡崎:僕もすごくよいデザインだと感じるんです。けれど、多くの人が理解できるデザインではないような気もします。いわゆるデザインリテラシーが高くないとよいと思えないんじゃないかと。
いいデザインとは何か
──ただ「このデザインをわからない人がダメ」というのは、プロダクトデザインの場合、NGワードのような気もしますが……。
和田:いや、それは表現のしかた次第ですよ。さっき我々が言ったことを否定的にとらえられるのは本意ではなく、前向きにとらえてもらえる言い方やデザインの提案はできると思っています。
岡崎:アルファロメオ155を最初に見た時になんじゃこりゃと思い、デザイナー本人にそれを伝えると「君のその感覚は時間が解決してくれるよ」と言われたんです。で、実際どんどん気に入って、最後は買っちゃったんです。そういうデザインがいいデザインだと思うんです。近頃の日本車に多い、最初に見た時に衝撃を受けるデザインは、急速に見飽きちゃったり、増えれば増えるほど嫌になってくることが多い。このあたりにいいデザインとは何かというヒントがあるような気がするんですよね。
和田:90年代のアウディには素晴らしいデザイナーが数多くいて、素晴らしいデザインをたくさん見ました。ただ、インパクトのある新しいデザインを提案すると日本の経営者やディレクターは飛びつくんですが、アウディでは新しいデザインを見せると、まず「セラーへ持っていけ」と言われるんです。しばらく寝かせるわけですね。で、何かの拍子に「この前のあれ持ってこい」と言われる。持ってくるとしばらく眺めて、また戻すよう言われる。そういうシーンを何度も見ました。彼らは新しさに懐疑的なんですよ。多分クラシシズムのほうが大切なんです。新しいデザインが提案されると、これがヨーロッパの文化に根付くことができるかどうかの判断にすごく慎重なんです。
岡崎:新しいアイデアをいくつももって入社した若いデザイナーがアウディに入ったらフラストレーションが溜まるんでしょうね。