「日本車とドイツ車」、デザインの決定的な差 新しいからといってそれが良いとは限らない
和田:日産とアウディで仕事をしてみて、いろいろな違いに気付かされました。まずディレクターの考えがまったく違う。例えばアウディ時代、ワルター(・デ・シルバ)からは日産時代に言われた「売れるクルマをつくれ」というようなことは一度も言われませんでした。皆、とにかく美しいデザインを描くことに努めていたんです。野望もあったと思う。彼とA6、Q7、A5、A7などで一緒に仕事をしましたが、売れるかどうか考えたことはありません。もしも日本メーカーのデザイナーが”売れるためならなんだってする”と考えて仕事をしているとしたら、真逆と言いたいです。
岡崎:しかもそれらは結果的にすべて世界的に成功しましたね。
和田:自ずと売れるんですよ。”PURE”なんです。売らんかなのデザインじゃないからこそ売れる、というのがプロダクトデザインのあるべき姿ではないでしょうか。
岡崎:プリウスについてお聞きしたいんですが、プリウスは同じトヨタのアクアとベストセラーを争うクルマです。そういう街にあふれるクルマとわかっていて、今回のプリウスのように先鋭的なデザインにしたことを考えると、トヨタデザインが変わってきているのかなと思うんです。和田さんにはどう見えますか?
オリジナルの”もっと”化の先には…
和田:僕は現役デザイナーなので、なるべく他のデザインの批評はしたくないんですが、聞かれたことに答えるとすると、豊田章男社長の影響が大きいんじゃないですか。ピンクのクラウンがありましたよね。あの頃トヨタが変わったと感じました。僕はアウディでシングルフレームグリルをデザインしたのですが、多少は他社に影響を与え、フロントマスクのデザインのひとつの軸というか定番になったと自負しています。クラウンのあのフロントグリルのデザインを見て、シングルフレームがこういうかたちで影響を与えるのかなとも思いました。レクサスのスピンドルグリルを見ても感じることですが、先にあったものを受けて、それを”もっともっと”という感じでふくらませていくデザインともいえますね。
岡崎:トヨタはアルファード・ハイブリッドのフロントマスクのデザインで、レクサスのスピンドルグリルに近いようなことをやっています。社内物からの拝借ともいえる。僕はあまりいいことではないと思うんです。
和田:それは現代のクリエイティビティが抱える問題でもあるんです、オリジナルであることは本来非常に重要なんですが、これだけ商品が多数あると、オリジナルであることがむずかしい、という状況があります。
岡崎:それで、オリジナルの”もっと”化を進めていくと、女子高生が友達とメイク競争しているうちに、互いにだんだん過激になって、気づけばふたりともヤマンバみたいになっちゃう、というようなことになりかねない。