「日本車とドイツ車」、デザインの決定的な差 新しいからといってそれが良いとは限らない

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和田:その通りです。グローバル化の功罪ですね。話を戻すと、クルマのつくり方やデザインの方法を変えるといっても、大メーカーは急に変われないわけです。世界中に工場があって、投資してきているわけですし。だから、これからはベンチャーがデザイン面でもクルマづくりの面でも重要なポジションを占めていくような気がします。

岡崎:デザインの傾向を見てみると、プレミアムメーカーのほうがシンプルでスッキリしたデザインで、大衆メーカーは線をたくさん描いて目立とうとしているように思えます。

和田:日本人は”ない”ことを怖がるんですよ。エディトリアルデザインでもそうだし、クルマのデザインでも、例えばボディサイドの余白が怖いとかね。日本メーカーは、とくに経営陣は、その余白に耐えられないんです。普通に見られるのが怖くて。ドイツはメーカーもユーザーも余白のもつ深みや強さに価値を見出すような教育を受けているんだと思います。

岡崎:そういえば、週刊誌とかは余白が少ないですよね。

和田:デザイン本になればなるほど、グラフィックの哲学や思考が入って、余白は増えます。僕はクルマは鏡面だと思っているんです。ガレージから出てきたクルマがパブリックな場所に出ていって、社会を映す鏡になる。実際に景色がボディに映り込むという意味でも鏡だし、いまの社会の時代的な美意識を可視化している。トヨタ車や日産車のボディサイドにはたくさんのラインがあって、面をねじりまくってます。そうなると、映し出される風景も歪む。なんか、社会を反映しているデザインなのかな、と思ったりします。僕は”普通の原理”をドイツで学んで帰国後にいろんな人に話しましたが、わかってくれる人ばかりではありません。

岡崎:たくさん線を引いて複雑な面構成をしたほうがデザイナーがよく仕事をしているということになるのかな? 有名な書道家が、漢字の「一」が一番難しいと言っていたけれど、それと似ているかもしれませんね。

クラシシズムこそ最高の栄誉

和田:A5はオスカーという優れたドイツ製品に贈られるデザイン大賞を獲ったんですが、その際の受賞理由が「究極のクラシシズムだ」というものだったんです。モダンという言葉は一切入ってなかった。当時の僕はそれが不満でした。クラシックだと限定されたことが。まだ僕が日本人の感覚だったからです。日本人のクラシシズムに対する評価はヨーロッパと比べると全然低いですよね。新しいものこそすべてで、過去を振り返るなと。日本車のデザインもそう。”新しさ”にとらわれすぎている気がします。トヨタにも日産にもホンダにもせっかく素晴らしいヘリテージがあるにもかかわらず、使おうとしない。僕はことあるごとに日本メーカーの人に言うんです。「まもなくアジアの隣国がいろいろな意味であなた方を追い越しますよ。その時に日本メーカーの財産となるのは先輩がつくったものですよ」と。

岡崎:ゴルフとカローラの違いはそこじゃないですか。

和田:まさに。毎回新しいデザインでやってくるカローラと、前のモデルから激変せず、連綿と続くデザインのゴルフの違いですね。例えば、僕はトヨタ2000GTのヘリテージを用いたクルマをデザインしてみたいですね。あのクルマがあの時代のトヨタから出てきたことは奇跡だと思います。

岡崎:まぁ、前だけ見て新しいものを追い求める時期も必要なんでしょうけどね。

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