「文学賞なし」で人気作家になる人のリアル 「投稿サイト」で夢は叶いやすくなったのか?

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また長編だけでなく、短編、掌編、さらには企画書だけでも応募OKなど、気軽に投稿できるコンテストも多くなった。「投稿者にとっていい時代だなと思いますし、デビューするチャンスは格段に増えたと思います」と本田さんはしみじみ語った。

文学賞とは異なる視点

では小説投稿サイトを運営する側は、どのように考えているのだろうか。累計作家数141万人超、配信してきた作品は230万点以上。日本最大級の小説投稿サイト「エブリスタ」の芹川太郎社長が取材に応じてくれた。

同社からは、これまでに600点以上の書籍化が実現している。その中には、シリーズ累計700万部の『王様ゲーム』シリーズや、テレビドラマ化もされた『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』など、ベストセラーも数多く含まれている。まず、新人発掘のための取り組みについて聞いた。

小説投稿サイト「エブリスタ」の芹川太郎社長

「作家発掘のための取り組みとして、私たちはほぼ毎週コンテストを開催しています。たとえば、さまざまな出版社と提携して、プロ作家を発掘する『エブリスタ小説大賞』のような本格的なもの。一方で、小説を書き始めたばかりの方、気軽に書きたい方向けの短編小説コンテストもあります。小説を書くすべての方を対象に、その作品が1人でも多くの読者の目に触れる機会をつくっています」

せっかく面白い作品を書いたのに、誰の目にも止まらない。究極的に言えば、作者の死後に名作が発見された、という機会損失をなくしたいのだと芹川社長。コンテスト以外にも、社内で新しく投稿された作品をつねにチェックし、特集を組んで紹介するなど、露出機会の最大化に注力している。

書籍市場が縮小する中でも、エブリスタを通じて書籍化された作品は、安定的な売れ行きだという。その要因の1つとして、芹川社長は、マーケットインの考え方を重視していることを挙げる。

「歴史ある文学賞は、各社が担う文学史を継いでいくような作品を選ぶ側面があると思います。読者やマーケットのニーズとは異なる視点も含め、作品を評価しているのでしょう。私たちは純粋に、読者や市場が求めているものは何か、という視点で作品を選んでいます。それが安定的な売り上げにつながっているのかと思います」

エブリスタを追うように、近年は出版各社も、独自の小説投稿サイトを開設する動きがある。その背景には、やはり新人を発掘する狙いがあると芹川社長は分析する。スター性のある新人作家の獲得に各社が苦労する中、小説投稿サイトからは面白い作品もベストセラーも多数生まれている。そこで、自分たちも着手しなければ、と踏み切ったわけだ。

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