(第3回)再生医療への取り組み(その1)

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 一方で、臨床グループの取り組みがある。各科の医師を中心としたグループがそれぞれの専門治療の対象とする臓器を標的に再生医療に取り組んでいる。私も眼科グループと議論する機会が多いが、彼らのモティベーションの原点は目の前の患者さんをいかに救うか、という点にあり、どちらかといえばとにかく再生を実現することが先で原理はあとからついてくる、という立場である。

渡辺先生の専門は、網膜の再生の研究です!


 我々基礎研究者はどちらかというと、先に臓器の発生の原理をつかみ、手法を開発しlogicalに攻めることでより効率良く再生を実現できないだろうか、という立場であるといえよう。しかし基礎研究者にとって臨床応用への道は遠い。両者の取り組みや守備範囲は相互補完的といってもよく、協調して仕事を進めることが重要であると痛感している。
図3-1 発生と軸の概念
 細胞という概念がうまれるまで生物の発生は精子、あるいは卵の中にいる小人が大きくなっていく過程だと考えられていた。19世紀になりようやくすべての生物は細胞(unit of life)により構成されているという考えが提唱され、細胞が数を増やし、分化していくことで発生は行われる、という考えにいたった。

 この過程を分子の基盤で説明しようとするのが発生学であるが、ひとつの受精卵がどのようにこの複雑な個体になるのか、という命題は発生学者のみならず素朴に興味をそそられる。再生学の多くの研究者はこの発生の過程を理解し、この過程を試験管内で再現し必要な臓器を作ることを目指している。

 受精卵ははじめはまるで無秩序であるかのように細胞の数を急速に増やすが、そのうち3次元的な構造をもつようになる。発生学では3次元構造を「軸」の概念で考える。図に示すように、前後、左右、背腹の3つの「軸」で生物を3次元空間の中にとらえ、その軸の形成の分子機構に還元して形態形成をとらえる。大学院から血液を材料に研究をすすめてきた私にとって、血液というばらばらで上も下もない臓器の世界から網膜という軸のある臓器に研究対象をかえた当初は、この概念がなかなかなじまずに苦労した。(なお、モデルは我が家の庭ネコのまいこちゃんです。)
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