今の日本だと「同一労働同一賃金」はスベる 日本人の意識改革が必要だ

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一方、従順な学生にとっては、良い成績を収め、一流企業で安泰な職を得るのが理想の生き方だ。いったん企業に入ると、新入社員は同級生とほぼ同じペースで昇進する。「基本的に、全員が同じ額の給与を受け取っており、そこには『同一労働同一賃金』は存在しない。あるのは能力とは関係のない、同級生内での同一賃金だ」と、慶應義塾大学大学院商学研究科の柏木茂雄教授は話す。プリンストン大学の公共政策修士号を持つ同教授は財務省(大蔵省)に34年間勤めていた経験を持つ。

この「現象」からわかることは、「日本人は順応するために競争することだ」と柏木教授は指摘する。高校生はいい大学に入るために競争する。入学してからは、誰も目立ちたがらず、全員が同じように歩む。そして、有名企業でのポジションを求めて競争する。入社してからは、同級生と同じように昇級することに満足する。米国では同じ大学出身の同級生であっても、能力の高い従業員はほかの社員より2倍以上の給与を得ることは珍しくないが、日本企業では能力に応じてそこまで差が広がることはない。

今の日本は「7人の侍」に出てくる農村

日本では、同一グループ内のメンバーは同等で扱われるべきだという考えが強い。「普通」に振る舞うことで社会的な承認を得ることは、個人のスキルや能力を誇示することよりも優先順位が高い。柏木教授は「まずはこのメンタリティを変える必要がある」と話す。「日本の集団思考がこれを許すかどうかは、また別の話だが」。

現在、日本企業はよりスピーディかつ革新的、そしてグローバルな欧米企業からの外的脅威にさらされている。こうした中、競争力を高めるために設計された労働改革は、おそらく社会的調和を破壊することになるだろう。能力ではなく、年功序列で昇級してきた労働者は、労働改革によって損をするかもしれない。一方、現行制度のままでは、能力の高い新入社員が割を食うことになりかねない。

日本は今まさに、国際競争力を高めるのか、それとも、社会の安定を維持するのかを問われているのである。

柏木教授は現代の日本を、黒澤明監督の『七人の侍』で描かれた、人里離れた農村に例える。作中では、貧しくも幸せな農民たちがある日、完全武装した盗賊たちが作物を盗もうと企てていることを知る。彼らを守ってくれるような統制だった政府もないため、農民たちは知恵者の老人に助言をあおぎ、自ら防衛することを決める。何人かの農民が浪人を雇うため近くの村に赴き、7人の侍が農民の代わりに盗賊と戦うことに同意する。映画のラストでは、農民たちが貧しくも平和な農村生活に戻る――。

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