ロウソクが実は成長産業であるという意味

衰退産業をよみがえらせる「意味の革新」

電気のない時代、ロウソクは大切な機能製品でした。部屋全体を明るくすることはできませんが、必要な箇所を照らし出すのに役立ちます。ただ、電気が普及して以降、ロウソクは停電のときなど緊急事態だけで使われるものになり、古臭くてダサいものにも見えたのです。

しかもいまやスマートフォンの懐中電灯アプリを使えば、停電のときでさえロウソクは必要ありません。したがって、ロウソクが機能商品として買われることは滅多にないはずです。

それでは、ロウソクビジネスは、ほぼ絶滅したのでしょうか?

欧州ロウソク製造業者協会の情報によれば、2016年の年間消費量は70万トンでした。欧州市民は1人当たり1.4キロのロウソクを消費した計算になるとのこと。これは過去の記録を更新するほどの数字で、年10%以上の伸びだといいます。しかも、10本のロウソクのうち9本は欧州製なのです。

これはかなり意外なデータではないでしょうか。ロウソク産業は過去の産業ではなく、「今も成長している産業」だということです。とはいえ、利用シーンから考えて、教会のような宗教的な空間(日本であれば仏壇)での利用が成長を促しているはずはないでしょう。

ロウソクの「意味」が変わった

ここで、ふと思い出すのではないでしょうか。しゃれたレストランの食卓にあるロウソクや香りのついたカラフルなロウソクの存在を。つまり、ロウソクの「意味」が変わったのです。かつての「手元を明るくするロウソク」から「ぬくもりを感じさせるロウソク」へと。

次のデータが、この背景を裏付けます。米国ロウソク協会の調査結果では、ロウソクを購入する目的は、10人中9人が「部屋でくつろぐため」でした。ロマンティックな雰囲気を味わう、あるいはストレス軽減というのがさらなる理由です。購入したもののタンスの奥に眠っている、というわけではありません。消費者の大半が、購入後1週間以内に使用するのです。

この「ロウソクの意味のイノベーション」を象徴する企業が、米国のヤンキー・キャンドル社です。

1960年代後半のある年のクリスマス、マサチューセッツ州の10代の少年が、母親のため、自分で作った特別なロウソクをプレゼントしようとしました。それを見た近所のおばさんが「私にも作ってよ」と頼んだことが、少年の将来にビジネスヒントを与えたのです。

その後、この少年が1970年代に創業したヤンキー・キャンドル社は、あっという間に業界ナンバーワンに上り詰めます。2012年の売上は8億ドル以上(現在の円レートで換算すると約900億円)。全米に500以上の直営店を持ち、香り付きプレミアムロウソク市場で44%ものシェアを持つに至りました。

そして2013年、消費財メーカーのジャーデン(Jarden)社が、同社としては最大規模の買収額、17億5000万ドルで、ヤンキー・キャンドル社を傘下に引き入れました。このように、一見、衰退産業と見えるかもしれないビジネスをよみがえらせるのが「意味のイノベーション」なのです。

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