ロウソクが実は成長産業であるという意味 衰退産業をよみがえらせる「意味の革新」
写真を見るとわかるように、ヘッドはほほ笑んでいる女性の顔です。コルクにオープナーの先を差し込んで回していくと、徐々に腕が広がっていき、食卓で女性が踊るようなシーンが展開されます。このように、そこに何も期待していないところに喜びを提供するのが「意味のイノベーション」の真骨頂。別の表現を使えば、意味のイノベーションとは「贈り物」なのです。
スウォッチが新しい時計のモノサシをつくった
技術的なトレンドとは少々距離のある題材の紹介が続いたので、今度は1980年代の時計業界に話題を振ってみます。
1970年代以前、時計とは一生モノであり、宝飾品のカテゴリーに入るものでした。その世界の風景をガラリと変えたのがクォーツとデジタル表示の技術で、それまでの機械式時計を一斉に駆逐します。一時、世界市場の40%を握っていた「時計王国」スイスの時計メーカーは、約10年のうちに3分の2程度が事業から撤退したといわれます。新しい主役はセイコーやカシオ計算機などのアジア勢でした。
この段階の意味のイノベーションは「宝飾品としての時計から道具としての時計へ」です。しかし、道具というだけに留まるのであれば、価格競争という「レッド・オーシャン」の戦いになってしまいます。ここに1980年代初頭、新しいモノサシを持ち込んだのが、ニコラス・ハイエク。スウォッチの創業会長です。
クォーツのアナログ表示、プラスチック製で、「宝飾品でも時計でもないファッションアイテムとしての時計」を発売し、1983年に110万個、1984年400万個、1985年800万個と販売は快進撃を続けたのです。「一生モノ」から「毎年、ファッションアクセサリーとして買うようになった」ことへの変化の結果です。
ハイエクはコミュニケーターとしての才能も発揮し「ネクタイは100本持っていても、もう1本買う。時計も同じ」と、メタファーを使ってスウォッチのファッション化を伝えました。
これにより、オメガなども含むスウォッチのグループであるSMH(現スウォッチ・グループ)は、1994年のフォーチュン500において売上高利益率で22位。1980年代初めには死滅状態だったスイス時計メーカーの市場占有率は同年、およそ60%に及び、1970年代初めのクォーツ以前のシェアを大幅に上回るに至ったのです。
このように、意味のイノベーションは、長期的利益の源泉を生みます。記事の冒頭で、欧州委員会のイノベーション政策でこの考え方が重視されていると書きましたが、それは「短期決戦ではなく、長期的な利益をどうつかむか?」が大きな課題であると見ているためなのです。
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