「ハードな離脱」は経済・雇用への影響が大きく、「ソフトな離脱」にベネフィットがないのであれば、英国にとっての最善の選択肢は離脱の撤回ではないのか、という疑問が浮かび上がってくる。
EU首脳会議の報道で英国メディアが大きく取り上げたトゥスク議長(通称EU大統領)の発言がある。「英国がEUに留まることを夢見る」というものだ。トゥスク議長は「EUは実現不可能と思われる夢の上に構築された」とも述べ、今はあり得ないように見える離脱撤回の可能性に控えめな期待を示した。
離脱撤回?またはハードかつ無秩序な離脱
実は、英国の総選挙が予想外の結果に終わってから、フランスのマクロン大統領、ドイツのショイブレ財務相、欧州議会で離脱交渉を担当するフェルホフスタット議員(ベルギー元首相)などEU側から離脱撤回は可能という主旨の発言が相次いでいる。
EUにとって、英国は国家主権を委譲する統合に懐疑的立場を採る悩ましい加盟国だったが、離脱撤回は、やはり最善のシナリオだ。膨大かつ煩雑な離脱協議やFTA協議を回避できる。「大国・英国ですら離脱できなかった」となれば、EU離脱を掲げる政治勢力への強力な抑止力となる。
しかし、今の段階では、英国内に離脱撤回への動きが盛り上がる気配はなく、あくまでも「夢」だ。YouGovの6月12~13日の調査でも、「離脱反対ないし再度の国民投票を支持する」割合は21%に過ぎない。Survationの調査でも、「離脱交渉そのものを止め、EUに留まる」と答えた割合は25%だ。総選挙では、自由民主党が、主要政党で唯一、「残留という選択肢を設けた国民投票の実施」を呼び掛けたが、広く支持を得ることはなかった。
メイ政権の支持率が高かった総選挙の1カ月ほど前までは、英国のEU離脱のシナリオは「ハードな離脱」に集約されていたが、今は状況が変わった。この先、EUとの協議が進展するに連れ英国にとってベネフィットがある形での「ソフトな離脱」が難しいことが明らかになってくるだろう。経済・雇用への悪影響も実感されるようになるだろう。「離脱撤回」への機運が高まるかもしれない。しかし、政局の混迷が続き、EUとの協議がまとまらないまま、「ハードかつ無秩序な離脱に至る」という可能性もある。
英国に拠点を置く日本企業は、様々なシナリオを想定して準備しなければならない。
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