英国メイ首相敗北で、まさかのEU離脱撤回⁈ EU首脳会議、トゥスクEU大統領が抱いた「夢」

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メイ首相の「敗北」でEU離脱戦略の不透明感は増した。

昨年の国民投票で英国はEU離脱を選んだが、「どのような離脱を望むか」は問わなかった。国民投票の敗北で辞任したキャメロン前首相の後を引き継いだメイ首相は、EUから移民の制限、立法と司法、通商交渉の権限を取り戻すことを優先し、EUの単一市場からも関税同盟からも離脱する「ハードな離脱」戦略を選んだ。EUとは包括的な自由貿易協定(FTA)の締結を望み、離脱とFTAをつなぐ移行期間も必要との立場だが、EUから得られる条件が悪いものであれば、協定なしの離脱も辞さないとも明言していた。今回の総選挙で、メイ首相が地滑り的な勝利を収めていれば、「ハードな離脱」を民意として、EUと強い立場で交渉に臨むことができた。

しかし、総選挙の後、国内では「ソフトな離脱」を求める圧力が強まっている。総選挙で議席を30増やした労働党は、雇用と経済を優先するとの立場から、単一通貨と関税同盟のベネフィットを維持する「ソフトな離脱」を公約とした。完全にクリアな離脱を掲げた英国独立党(UKIP)は得票率を大きく減らし、議席を失った。

メイ首相の「ハードな離脱」には、保守党内からも異論があった。ハモンド財務相は、20日に金融街シティで行った演説で、離脱にあたっては「雇用と繁栄を最優先」すべきであり、「最も重要な輸出セクターの1つである金融業のために現実的なアプローチを採る」重要性を強調、「ハードな離脱」を牽制した。

Survationの世論調査でも、単一市場と関税同盟に残留する「ソフトな離脱」が望ましいと答えた割合が55%と「ハードな離脱が望ましい」の35%、「わからない」の10%を大きくリードした。

現実には難しい「ソフトな離脱」

しかし、こうした期待の高まりとは裏腹に「ソフトな離脱」の実現可能性は高くはない。EU側は単一市場の「いいとこどり」は許さない方針を堅持しており、英国にとってベネフィットがある「ソフトな離脱」は難しいからだ。

EUは、英国に続く離脱国を出さないためにも、財・サービス・資本・人の4つの自由を切り離すつもりはない。英国は、国民投票で離脱の決め手になった移民の制限を手放さなければ、単一市場には残留できない。

総選挙後、「ソフトかつ円滑な離脱」の戦略としてノルウェーなどが参加する「欧州経済領域(EEA)」への参加を促す提言を目にする機会も増えた。だが、EEAに参加する場合は、人の移動の自由を受け入れなければならないし、EUの法規制については、意思決定に参加できず、一方的に受け入れる立場になる。ユーロを導入しない権利などを得て、EUで特権的な立場を築いてきた英国にとっては「格下げ」という感があり、到底受け入れられないだろう。関税同盟への残留についても、通商権限の回復を断念するというコストを伴う。

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