だとすれば、デフレ脱却が本当に重要な政策目標であるなら(筆者はそう思うが)、消費税率引き上げは先送りするのが「妥当」であり、少なくとも「無難」だ。国民の「超合理性」に賭けて、敢えて来年度に増税するリスクを冒すのは愚かだ。
増税見送りのリスクは小さい
消費税率の引き上げを見送ることを決めた場合には何か不都合が起こるのだろうか。この場合に「まずいこと」が起こる可能性が小さいなら、増税のリスクを避けることが合理的だ。
増税賛成派が主張する最大の懸念は、長期金利の高騰、即ち国債暴落だ。「日本の財政赤字は大きく、未曾有の水準だ。にもかかわらず、日本の国債が低利回りを保っているのは、消費税率の引き上げの余地が大きくあると市場参加者が見ているからで、消費税率の引き上げが見送られると、財政再建を実行する意思が疑われて、国債が暴落しかねない」というのが、彼らが語る典型的なストーリーだ。これは、本当に心配するに値する展開か。
一般論として、累積財政赤字の拡大が問題になるチャネルは、(1)長期金利上昇、(2)インフレ、(3)自国通貨安、だ。それでは、現在のマーケットを見ると、長期金利は世界的に最低水準で、インフレ以前にデフレが問題で、出来ればもっと円安にしたい、というのが日本の現状だ。
加えて、最も心配される国債市場を子細に見るとして、ここしばらく消費税率引き上げが行われるか否かが議論される状況で、長期金利は0.8%前後で落ち着いている。これは、消費税率引き上げの見送りが一大事なら、あり得ない安定ぶりだ。
消費税率が引き上げられれば景気はスローダウンし、デフレ脱却は遠のく。その場合、デフレないし低インフレの中で長期金利が大幅に上がってくれるなら、喜んで国債を買いたいというのが、多くの銀行、生保、年金基金などの運用事情なのである。
将来、高齢者が貯蓄を取り崩すようになった場合に、この需給の状況が変化する可能性はあるが、現在は信用リスクの小さい確定利回りの対象に対する運用資金の需要は旺盛だ。
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