政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年 ジェラルド・カーティス著 ~ 日本人も見習うべき冷静さとバランス感覚
タイトルからしてしゃれている。日本文化と社会への愛情、それに「下手な日本人」へのちょっとした皮肉な問いかけが込められているといったところだろうか。著者のカーティス氏は、日本の政治を研究する学者はもちろん、日米交流に携わる人ならばおそらく知らない人はあるまい、というほどによく知られた方で、知日派第三世代の代表格である。本書の中にも紹介のある『代議士の誕生』(彼の博士論文)をはじめ、その後も、時代と日本の変化に合わせて内容の濃い著作を出版してきた。
本書の面白さは、アメリカ人による外からの目と、40年間に及ぶ観察を縦横に組み合わせた分析であり、叙述である。
(本当は茶色なのに)「青い目」で見た日本の政治といった紹介をされた、そんな1960年代から一貫して日本に親しみ、敬意をもって接し、そしてその特色を冷静に見つめてきた。日本政治のよさも悪さも、ともに率直に指摘する冷静さとバランス感覚は、日本人自身も大いに見習うべき点である。
40年間の観察も随所に織り込まれている。自民党衆議院議員に当選する前の佐藤文生氏の選挙運動に入り込んで体験した40年前の様子は、われわれ日本人の多くにとっても今や想像さえ難しい出来事の連続である。しかも、40年前と現在を巧みに行き来させる叙述が、読者に鋭いインパクトを与え、強い説得力を生み出している。
さて、カーティス氏が日本の政治に関して本書で発しているメッセージは、大きく言えば3点ある。第一に、55年体制の戦後の自民党政治には、悪いところばかりでなく、いろいろとよい点もあった。第二に、小選挙区制はよいもので、逆に中選挙区制は悪いものだという考え方が強いが、それは神話にすぎない。第三に、日本社会は大きく変化した。したがってその変化に対応して政治の手法や仕組みも思い切って変えるべきだ。
55年体制時代、「非公式な調整のメカニズム」が大きな役割を果たしていた。国対政治であり、派閥政治である。しかしそれは、国民に向けた「説得の政治」に切り替えて行くべきだ。これが変化の方向である。
ただしカーティス氏は、「隣の芝生は青い」といった風な議論の行き過ぎを戒め、日本の伝統と文化の素晴らしさ、粘り強さをしっかりと認識することの大切さを説いている。つまり、自信をもって変革に取り組むべきだというのである。
全体として、日本政治の部分は歯ごたえがある。一方、秋刀魚(社会評論)は実に見事で味わい深い。この二つの織り成すハーモニーを、読者は満喫できるに相違ない。
日経BP社 1680円 260ページ
profile
Gerald L.Curtis
コロンビア大学教授、早稲田大学客員教授。1940年ニューヨーク生まれ。ニュー・メキシコ大学卒業。コロンビア大学修士課程修了、同大学博士号取得。同大学で教鞭をとり、73年から91年まで同大学東アジア研究所長。慶応義塾大学、政策研究大学院大学、コレージュ・ド・フランス、シンガポール大学などの客員教授を歴任。
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