新規事業がイケてない会社にありがちな忖度 社長の意図を酌み取ろうとしても難しい

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新規事業とはそもそも正解がなく、どうすれば必ず成功するという答えがないものです。それでも、何か方針を決めて前に向かって検討を進めていかないと、何も具現化しませんし、具現化し市場に出してみなければ成功するかどうかわかりません。

新規事業の検討の初期段階で最も大事なことは、会社としての方針や方向性を明確にしていくことです。そのためには、忖度ばかりしていては議論がちっとも前に進みません。相手がたとえ経営者であろうとも、経営者に答えを求めるとうまくいきません。その会社に経験がないことをするのが新規事業です。その意味では経営者も起案者も、ことその領域のことについてはイーブンなんだ、というくらいの気構えが望ましいでしょう。

フェアウェーとOBゾーンと制約条件

ゴルフでティーグラウンドに立ったとき、ピンが見えなければどこへ向かって打ったらいいのかわかりません。

それでも、たとえピンは見えなくても、フェアウェーとOBゾーンがわかっていれば、まずは1打目はこっちのほうへと当たりがつくはずです。新規事業の検討初期には、まずフェアウェーとOBゾーンを確認するところから始めましょう。言葉を交わし議論を重ね、言語化していくことが重要です。

筆者が企業の経営者と話して方針を確認する際には、「試し打ち」としていくつかの事業案を投げかけてみて反応を見ます。

「たとえば〇〇なんて事業はどうなんでしょう」とか「世間では××系の事業が伸びていますが?」というように、具体的な例を挙げてその評価を聞き、「それはなぜか?」「どういう点で?」と質問を重ねていくと、「どんな事業に魅力を感じるか」「違うと感じる事業はどういうものか」少しずつ絞られてきます。

もしかすると対話の過程で、経営者の意図を酌み取りきれず、「お前はわかってない!」と怒られるようなことがあるかもしれません。

でもそれは、経営者自身がうまく自分の中で言語化できておらず、時につじつまの合わないこともあったりして、自分自身にいらだっている証拠かもしれません。そこを「経営者だって答えのない中で苦労しているんだ」と寛容に受け止めて、対話のよきパートナーになれたとき、起案者は新規事業担当者として一皮も二皮もむけた存在になっており、経営者からはますます信頼される存在になっているはずです。

石川 明 インキュベータ代表取締役

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いしかわ あきら / Akira Ishikawa

1988年上智大学文学部社会学科卒、1993年早稲田大学ビジネススクール修了。これまで、100社、1,700案件、3,500名以上の企業人による新規事業開発をインキュベータとして支援。リクルート社で7年間、新規事業開発室のマネージャとして、リクルート社の企業風土の象徴である、社内起業提案制度「New-RING」の事務局長を務める。2000年にリクルート社社員として、総合情報サイト「All About」社を創業し、JASDAQに上場。10年間、各種事業責任者を務める。

2010年に独立。ボトムアップによる新規事業開発の支援に特化して業務を請け負う事務所を開設。大手企業を中心に、新規事業の創出、新規事業を生み出すための社内制度の設計、起業型人材の育成に携わる。著書に「新規事業ワークブック」(2017)、「はじめての社内起業」(2015)がある。

早稲田ビジネススクール研究センター特別研究員 /SBI大学院大学MBAコース客員准教授。お問い合わせはFacebookページ「株式会社インキュベータ(旧:石川明事務所)まで。

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