結果、社長が会議中に発した言葉を一つひとつ吟味しながら、社長の意図するところを酌み取ろうとするのですが、なかなかできません。なぜなら、実は社長自身も明確に指示ができるほど、自分の中に確固たる考えがいまだないのです。
多くの場合、社長自身も自分の指示があいまいであることはうすうす気づいています。普段なら、課題は何で、どうすればいいかが自分の中で明確なので、具体的に指示を出すことができますが、新規事業はそうはいきません。なぜなら、新規事業は社長自身にとっても新たな経験であり、どうすればよいのか自分でもわからないのです。社長も人の子。自身に経験のない領域のことがわからないのも当然です。
社長の言葉にも一貫性がないことが多くなります。指示も当然あいまいになります。
それでも自身の事業センスには自信があるので、「なんとなくだけど、これはダメ」「確信はないけど、これはヨサゲ」という感覚はあります。ですが、「それはなぜか」と聞かれると明瞭には答えられず、自分でも何を軸に評価・判断をしているかがよくわからないことが多いのです。通常業務では機能していた「忖度」が新規事業では通用しないのです。
新規事業において忖度は百害あって一利なし
このようなケースで起案者側に立つ人に求められる役割は、社長の対話の相手になって社長自身の頭の中の整理をサポートすることです。積極的に質問をし、わからないことはわからないと言い、言葉を交わして議論を重ねることで、経営者の思考を助ける必要があります。
もちろん中には何か質問をすると、「そんなことはいちいち聞かずに自分の頭で考えろ!」と言われてしまうケースもあるでしょう。確かに「どんな新規事業がいいですか?」と指示を求めれば、そう言われても仕方がありません。
ですが私が知るかぎり、本当に真剣に新規事業の創出に悩まれている経営者は、対話の相手を求めていることが多いです。自分にとって未知の領域の話について、自分の頭の中でも明瞭に考えが整理されておらず、具体的なアイデアもなく、漠然と考えている状態でしかないことは、その経営者自身がいちばんよく自覚しています。
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