部長は管理部門が長く、社長とも何度も仕事をしてきているので、社長の考えはそれなりに理解をしているつもりでした。久しぶりに頭ごなしに怒られて、部長もかなりへこみました。それでもへこんでばかりもいられません。「既存の枠に縛られず、もっと大胆な発想で考えろ!」とハッパをかけられたからには、その期待に応えなければいけません。
次の戦略会議では、部長が知りうるかぎり過去の役員会では取り上げられたことが1度もないような斬新な事業案をえりすぐって、社長にぶつけました。
ですが、結果はまたしても撃沈。「お前、うちの会社を何屋だと思っているんだ。なぜ、わが社がこんな事業をする意味があるのか。お遊びでやってるんじゃないんだぞ!」。
挙げた事業案は、確かに既存事業から距離はあるものの、将来性はあるものと部長としてもそれなりに自信があったのですが、こうまで言われてしまうと立ち直れません。その後、再び周囲の社員にアイデアはないかと声をかけるものの、また社長の逆鱗(げきりん)に触れては大変と、周りの社員も案を持ち込んでこなくなってきました。
次はどういう事業案を上げればいいのか、部長も頭を抱えてしまっています。
なぜ新規事業の指示ではミスマッチが生じてしまうのか
今までの仕事の中で、社長と部長がここまで行き違えることはありませんでした。
あいまいな指示でも部長はちゃんと社長の意図を酌んで、先回りして対応をしてきました。まさに阿吽(あうん)の呼吸というやつで、「例のアレ、またナニしといてよ」でも通じるくらいの関係でした。
それが、こと新規事業ではうまくいきません。この部長にも経験がないため、的確に「忖度」することができないのです。指示があいまいでわからないのであれば直接聞けばいいではないか、は正論です。ですが、実際にはなかなかそうはいきません。
長らく「忖度」することで「気が利く男」「よくわかった男」と評価されてきた身としては、なかなか社長により具体的な指示を求めづらくなっているのです。社長に何か質問をするというのは、部長にとっては忖度できず仕事のできない社員がすることでした。
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