「北京お見合い広場」に親たちが殺到するワケ 婚活アプリ全盛の時代になぜアナログ婚活?

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親が人民公園のお見合い広場に行ったことがある、という上海在住の女性に以前話を聞いたことがあるが「まったく、あんなところに行っていい相手が見つかるわけはないのに、おかしいですよね。私は困っているんですけど、心配してくれる母を責めるとかわいそうなので、好きなようにさせています。親は上海の私の家に出てきている間、すごくひまなので……」と話していた。

中国でもいろいろ婚活サイトはあるのだが…

中国では1980年から約35年間続いた一人っ子政策によって、子どもは基本的に1人と制限されていたため、家を継ぐ男子を優先する家庭が増えた。その結果、中国政府の統計によると、女性100人に対し男子118人と男子が極端に多く、2020年までに3000万人以上の男子が結婚できない状態になると危惧されている。

また、女子も「剰女」(余った女性)といわれ、高学歴女性ほど婚期を逃す傾向がある。そんな子どもたちもまた、日本と同様、中国でも流行している婚活サイトに登録して相手探しをしているが、実際に登録している38歳の女性によると、「ニセの写真を使ったり学歴もごまかすなど、とにかくだまされることが多くて怖い。私はまだひとりも実際に会ってみたことはない」と話していて、彼女の場合は真剣に取り組んでいる様子はなかった。

結婚に積極的になれない若者たちが増加

中国は日本の10倍以上もの人口がいるとはいえ、都市部では晩婚化が進み、理想も高くなり、結婚相手を見つけるのは至難の業となっている。また、成熟化するにつれ、日本同様、個人主義化、草食化も進んでおり、都市部に限っては「結婚するよりもひとりで自由に暮らしたい」という雰囲気も強い。もちろん人によって結婚観はさまざまなので一概にはいえないし、前述したように都市戸籍のある人と結婚して安定した暮らしを手に入れたいと思っている人も多いのだが、多様化した社会で、結婚に積極的になれない若者は10年前よりも確実に増えている。

親たちは熱く語り合う

しかし、彼らの親の世代はまだ中国全体が貧しかった時代に青春時代を送り、ほとんどが職場などで上司の紹介でお見合い結婚をした「共通の経験」を持つ。適齢期になれば結婚して、子どもを持つのが当たり前だったし、親子関係もつねに連絡を取り合うほど濃密であるのが当然だった。

そんな親たちにとって子どもはたった1人(か2人)しかいないのだから、子どもに掛ける期待は大きい。だが、この30年間で中国社会は大きな変貌を遂げ、人々の価値観は変わってきた。仕事が忙しく、少し親と距離を置きたい冷めた子どもの思いとは裏腹に、親は伝統的な家庭観を貫きたいと考えている。そんな親たちにとって、代理お見合い広場は、何とか親として子どもの役に立ちたい、濃密な家族関係を維持したい、という切なる願いを訴える場なのかもしれない。気温38度という猛暑の北京の公園で、日がな一日熱く語り合う親たちの姿を見て、私はそんなふうに感じた。

中島 恵 ジャーナリスト

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なかじま けい / Kei Nakajima

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、フリ―に。著書に『なぜ中国人は財布を持たないのか』『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)などがある。

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