フェラーリ「峠仕様の跳ね馬」は何がスゴいか 「カリフォルニアT HS」に乗ってみた
標準仕様のカリフォルニアTは、その名のとおりアメリカ西海岸の陽光を楽しみながらドライブするのに最適なオープンカーで、もちろん誇り高き“跳ね馬”の紋章が与えられているからには、優れたコーナリング性能を備えているものの、フェラーリとしてはハンドリングよりも快適性に重きを置いたモデルだった。それがハンドリング・スペチアーレとなってどう生まれ変わったのか。心のなかで不安と期待が交錯した。
引き締まった乗り心地
右手でイグニッションキーをひねり、ステアリング上の赤いボタンを押し込んでV8エンジンを目覚めさせる。次の瞬間、森の木々がかすかにさざめいたような気がした。ハンドリング・スペチアーレはエグゾースト系も“スペシャル”で、フェラーリ・ミュージックの音量はスタンダードモデルよりもやや大きめなのだ。
全体的な音色は中低音を中心とした分厚いものだが、そのなかに澄んだ高音が混じっていて、このエンジンがマラネロ生まれであることを思い起こさせてくれる。重低音を響かせるフルオーケストラと、きらびやかなソロを奏でるバイオリニストの華麗な競演、といった趣だ。
例によってスムーズな変速を見せるフェラーリ製DCTを操りながら加速し、徐々にコーナリングスピードを上げていく。足回りは確かに硬めだが、ゴツゴツとした印象を強く与えることもなければ、波打つ路面に共振してボディが際限なく上下動を繰り返すこともない。スポーツカー好きであれば「引き締まった乗り心地」として歓迎するはずのセッティングだ。
しかし、このサスペンションがハンドリングに与える効果は絶大。ステアリングをわずかに切ればノーズが正確にそれに呼応してコーナーのイン側を向く。操舵に対する反応は正確で素早いが、決してドライバーを驚かせるほど過敏ではなく、あくまでも意のままに操れるステアリング・レスポンスだ。おかげでドライバーはクルマとの強い一体感を得ることができる。