一流の経営者は「経営理論」を振りかざない

「参考にしても信用はしない」が正しい常識

活躍したのは1960年前後の話ですから、もう60年近く前のことです。彼の書いた『経営学入門―現代企業はどんな技能を必要とするか』(1958年刊)は大ベストセラーになり、一躍、この先生は脚光を浴びました。その内容は、必ずしも「数字尊重」「分析優先」ではなかったように記憶しています。

しかし、その後、実家の製薬会社を引き受け、経営者になった結果どうなったかというと、あっという間に倒産させてしまったのです。このことは、今でも語り草になっています。

いくら机上で考え、観察しながら、経営を分析し、論じても、実際の経営に応用適合することはありませんし、死んだ数字と資料を基にしているのですから、現実問題に対して活用することは不可能なのです。

たとえるならば、一度も実際に泳いだこともないコーチが、水泳選手をプールの上から見て、観察し、理論化して、ああでもない、こうでもないと、自分の作成したノートを見ながら言ったところで、では、本当に選手の泳ぎ方に効果があるのか、選手を育てることができるのか、ということです。

「参考にしても信用はしない」が正しい常識

学者、評論家の言うことは、参考にしても、言うところのことをそのまま鵜呑みにしては、必ず経営において失敗するということです。学者は、あくまで学者。評論家は、あくまでも評論家。「参考にしても信用はしない」が経営者、ビジネスパーソンにとっての大事なスタンスだということです。

もちろん、そのような分析をして、賢いところを見せたい、そのような理論を振りかざして周囲や社員を圧倒したいと思う見栄っ張り経営者やビジネスパーソンがおいでならば、それは、どうぞご勝手に、というほかありません。ですから否定はしません。

実際、松下幸之助さんが、まさにマイナスから出発して、会社を70年間で7兆円の企業につくり上げた、その過程を見れば、数字の分析や学者、評論家の理論に基づいたことは、ほとんどなかった。経理担当責任者から聞いて、参考にしたかもしれませんが、その程度だったと言ってもいいでしょう。それでも、世界的企業をつくり上げたのです。

私が、PHP研究所の経営者として、松下さんに報告を求められた数字は、売り上げ、利益、在庫、内部留保、社員数の5つ(もし借金があれば借入金額を確認されたかもしれません)と、期末のBS(貸借対照表)、PL(損益計算書)でした。もちろん、松下さんは長い経営者としての経験から、頭の中で、それだけの数字の報告で、経営分析をしていたのかもしれませんが、そうだとすれば、これぐらいで、経営状況が把握できる力がなければならないということでしょう。

とはいえ、一度も、総資本回転率はどうなっているのか、売上高費用比率はどうなっているのかなどと聞かれたことはありませんでした。

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