ファナックにのしかかる、iPhone依存のツケ ロボドリルが急失速

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業界筋によると、ファナックが設備増強を決断した当時、アップル・鴻海側はアイフォーン生産台数が1日当たり約70万台まで増えると想定していた。ところが、筑波工場の増産工事が進む中、アイフォーンの販売は思うように伸びなかった。鴻海の足元の生産台数は同30万~35万台程度にとどまるもようだ。

鴻海の低稼働は、当然ながらファナックにも波及する。能力増強前の月産2500台体制でロボマシン部門の四半期売上高が500億円前後だったことから逆算すると、足元の稼働率がかなりの低水準であることは間違いない。工作機械各社の幹部たちも「あの増強は一線を越えていた」と口をそろえる。

別の問題も頭をもたげる。鴻海が抱える余剰設備がどこに向かうかだ。

ロボドリルは自動車や2輪車のアルミ製部品の加工ラインなどにも使われており、アイフォーン向け以外にも一定の需要がある。「大量のロボドリルが鴻海から中古市場に流れれば、新品の機械はますます売れなくなる」(関係者)。

悪い知らせは重なる。業界では、アップルが年内にも樹脂製筐体の廉価版アイフォーンを投入する、とうわさされている。ソニーなど他社製のスマートフォンは樹脂製の筐体が一般的。一つひとつアルミの素材を削り出す従来型のアイフォーンは特殊な存在だった。樹脂製筐体の加工には、ロボドリルのような金属加工用の工作機械は使わない。廉価版アイフォーンが投入されれば、ますますロボドリルの稼働台数が減り、余剰設備は増えることになる。

となれば、当面の課題はロボドリル依存からの脱却だ。幸いにも、ファナック全体で見れば、受注高は13年1~3月期の923億円を底に、4~6月期は1141億円と復調傾向にある。NC(数値制御)装置や産業用ロボットといった分野が持ち直したためだ。

ただ、こうした分野は競争の激しい自動車向け需要で成り立っている。アイフォーン向けのような高成長は期待できない。特需一巡後の新たな成長戦略が求められている。

(撮影:梅谷 秀司)

(週刊東洋経済2013年8月10日・8月17日号)

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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