あのギョウ虫検査が義務ではなくなった事情 1949年検査では64%の小学生に卵があった

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人につく寄生虫は、記録されているだけでも世界で約200種類、日本で100種類程度ですが、実際にはこれよりもはるかに多い寄生虫が存在していることが予測されています。これらは、原虫という顕微鏡でしか見えないものと、ゼン虫という人の目でも確認できる大きさのもの、そして人の体の表面に寄生したり、毒物によって危害を及ぼすノミやダニ、シラミなどに分けられます。

寄生虫の生態は本当にさまざまで、感染する場所やルート、症状は寄生虫によって大きく異なりますが、その多くは体の中に潜伏している時間が長いのが特徴です。最も多いのは、水や生肉や魚、野菜などを通じて口から感染するルート。その中でも感染者数が多いのが赤痢アメーバで、全人口の約1割にあたる約7億人が感染しているとされています。そのほか、蚊を媒介して感染するマラリアや、性行為やタオルなどを介して感染するケジラミなども、ある程度知名度のある寄生虫かもしれません。

しかしながら、世界には、まだその生態が解明されていない寄生虫も数多くあります。

世界の寄生虫事情

なぜ、多くの寄生虫の全貌が明らかになっていないのでしょうか。その理由の1つは、多くの寄生虫による病気が開発途上国の中でも最貧困層の間で蔓延していることから、市場原理が機能しないことにあります。つまり、特に企業にとっては、寄生虫に関する研究開発をしても、治療薬やワクチンなどの製品を買う人々が貧しく、リターンが見込まれないことから、新しい製品開発へのインセンティブがありませんでした。

このような構図も、2000年初めころから巨額の資金を有するビル&メリンダ・ゲイツ財団が資源を投下し、民間企業、研究・学術機関や政府、国際機関、NGOなどが、それぞれの組織の強みを生かして製品開発を行うオープンイノベーションが急増してきたことから、少しずつ変わりつつあります。日本も、欧米諸国に20年ほど後れを取っていますが、2012年には開発途上国の最貧困層が主に必要とする医薬品やワクチンなどの研究開発を促進するための基金(熱帯感染症と戦う「GHITファンド」の大構想)が設立され、寄生虫に関する数十のプロジェクトに研究助成がされています。

このような世界的な動きもあり、4月19日に世界保健機関(WHO)は、人類の中で制圧しなければならない熱帯病と定義されている「顧みられない熱帯病」(18の顧みられない熱帯病のうち、12が寄生虫による病気)のうち、ギニア虫(メジナ虫)感染症という病気がほぼ撲滅されたと発表しました。

2015年のノーベル賞受賞者の大村智先生が主導して研究開発されたイベルメクチンという薬も、オンコセルカ症という失明を引き起こす寄生虫の病気の治療薬として毎年3億人以上の人たちに投与されていますが、これもこの薬の特許権の一部を放棄し、無償提供できたからにほかなりません。

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