ミスターミニット「ダメ会社」が再生した理由 「主演・脚本・監督、俺」の29歳社長の変化とは?

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司会:減点主義だった会社がいきなり「褒める文化」の会社になれるものでしょうか?

:もちろん、すぐには変わりません。だから、トップから変えていくしかない。店舗を回るとき、私は「ここがダメだ」とか「服装を直せ」としかることはありません。抜擢した社員も資料を間違うとか、酔ってモノをなくすといった失敗はありますが(笑)、そういうときも責めない。ただ、褒めるべき行いがあったらしっかり声をかけるだけです。

とにかく「褒め」を意識したことで、彼らも部下たちを褒めるようになり、その部下が自分の部下を褒めるようになり……と、今、会社全体に褒める文化が広がりつつあって。社員の半分ぐらいが変わった瞬間、文化もガラガラっと変わる印象ですね。

変えてはいけない「企業のDNA」はどこか

司会:迫さんのご著書『リーダーの現場力』の中にはビジョンを決めるにあたって社風や「らしさ」を見抜くことが大切だと書かれています。これはどうやって見つけていけばいいのでしょうか。

遠藤:経営は環境や社会の変化に対応していく必要があるけれど、一方でレガシーは残さなきゃいけません。そのためには、「変えてはいけない自分たちのDNA、その本質はなにか?」とひたすら問い続けるしかないんです。ただ、客観的になるのが難しければ、社外取締役やコンサルタントを活用するのもいいと思います。

:私の場合、やはり社員とコミュニケーションをとるなかで、「職人魂」とか「お客様の無理難題を解決することにやりがいを感じる」といった「らしさ」がだんだん見えてきましたね。ここが事業の核になるはずだ、と。

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遠藤:経営コンサルタントを長年やってきて感じるのですが、新規事業を始めるときって市場性や収益性、成長性についてはみなさんよく分析するわけですよ。でも、根本的にいちばん欠けているのが「適社性」。「その事業はうちの会社に合っているの?」という検討は、ほとんど行われません。失敗する新規事業の多くは、適社性の観点から見るとミスマッチなんですね。

:それ、とてもよくわかります。私がミスターミニットに入社したときには、すでにいろいろなリサーチ資料がありました。ただ、そのほとんどはお客様や市場、競合調査。「どういう社員が働き、どういう思いを持ち、どういう『らしさ』がある」という自社のデータが一切なかったんです。それが、この会社が過去うまくいかなかったことの象徴と言えるでしょう。もちろんお客様や競合を知ることも大事ですが、それ以上に重要な自社を置き去りにしていたわけですから。

遠藤:迫さんがされたことは、「迫さんしかできないこと」ではありません。どの会社でも、どの方でもできる、非常に普遍的な「現場のプロデュース」法を実践されただけです。みなさんの会社にもきっと現場力が眠っているはず。それを最大限に活かす経営を目指してもらいたいと思います。

:ミスターミニットはまだまだ道半ばです。店舗によってはまだできていないところもあるかもしれません。ただ、理想に向かって確実に前には進んでいますので、理想的な会社の実現に向けて徹底してやっていこうと思っています。

(司会・記事構成:田中裕子)

迫 俊亮 ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長 CEO

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さこ しゅんすけ / Syunsuke Sako

1985年、福岡県生まれ。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)社会学部を卒業後、三菱商事に入社。その後、ベンチャー企業のマザーハウスに転じ、 同社の創業期を支えながら台湾における事業確立などでも成果を上げた。2013 年にミスターミニットを運営するミニット・アジア・パシフィック入社。苦戦を強いられていた東南アジア事業の建て直しを担い、2014 年4月、29歳にして代表取締役社長に就任。

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遠藤 功 シナ・コーポレーション代表取締役

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えんどう いさお / Isao Endo

早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。2005年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を務めた。

2020年6月末にローランド・ベルガー日本法人会長を退任。7月より「無所属」の独立コンサルタントとして活動。多くの企業のアドバイザー、経営顧問を務め、次世代リーダー育成の企業研修にも携わっている。良品計画やSOMPOホールディングス等の社外取締役を務める。

『現場力を鍛える』『見える化』『現場論』『生きている会社、死んでいる会社』『戦略コンサルタント 仕事の本質と全技法』(以上、東洋経済新報社)などべストセラー著書多数。

 

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