ポルシェが秘める「911至上主義」からの脱却 ケイマン GT4 クラブスポーツに忖度はない

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エンジンの始動は、量販モデルと変わらぬデザインのキーを、やはり同様に捻る方式。火が入るとその瞬間、キャビン内は轟音に包まれる。遮音材やカーペットが省略されているので、エンジン本体とドライバーを隔てるのは、薄いパネル1枚しかないのだ。

DCTは、スタートの瞬間から驚くほどにスムーズに作動する。パーシャル・スロットルの領域では低いギアを意味なく引っ張り過ぎるシフトスケジュールも、サーキット・スピードになると、「次のコーナーをあらかじめ読み込んでいるのではないか?」と思えるほどに適格に変速タイミングをはかるので、実際のところ、シフトパドルの操作を必要としない(!)ぐらいだった。

太いスリックタイヤを使い切る、という領域まではとても攻め込めなかったが、それでも“脚が地に着いた感触”は凄まじく濃厚だ。驚愕したのは、その乗り味が飛び切りスムーズだったことだ。縁石にちょっと乗り上げた程度では、そのショックをまったくと言って良いほど伝わってこない。

あれ? これだったらもっとパワーがあってもいいじゃない! と、最後は調子に乗ってそんなことすら感じたりしているうちに、5周という与えられた周回数はアッと言う間に終了となった。

純正仕様のクラブスポーツ

そんなマンタイレーシング謹製のクラブスポーツから、次はポルシェのモータースポーツ部門が手掛けた“純正仕様”のクラブスポーツへと乗り換える。

ボディ・カラーも同様で一見しての印象は近いものの、こちらは異なるレースカテゴリーを狙うため、フロントフードやドアは基本的に量販モデルと同様のスペックである。パワーウインドウやエアコンも作動する。

とはいえ、不要なものをすべて外したキャビン内は、やはりスパルタンな印象で、ピュアなレーシング・モデルといっても違和感のない装いだ。ロールケージを潜り抜け、頭部保護形状を備えたバッケットシートに沈んでドライビング・ポジションを決める。

車重はクラブスポーツMRよりもわずかに10kgほど重いが、量販型GT4よりは40kg軽い1300kg。エンジンのコンディションによるものか駆動ギア比が異なっていたせいか、絶対的な加速力はこの日乗った“3種類のGT4”の中で、このモデルが最も優れていた。

徐々に走りのペースを上げて行くと、その走りの質は、しかし、先に乗ったクラブスポーツMRとは全く異なるものだった。様々なところで激しく上下に揺すられ、「タイヤは全く同じもの」と説明されたにもかかわらず、接地感も安定感もクラブスポーツMRには遠く及ばなかったのである。

時に跳ねるような挙動のため、コーナリング中は修正舵が忙しく、加速時のトラクションでも大きく差が付いた。恐らくこれは、「このコースに対して、脚のセッティングが煮詰まっていない」ということであると思われた。言葉を換えれば、本来の力が十分に発揮できていないセッティングだった、ということである。

結果として、このモデルでは、より“クルマと格闘”した感があった。それゆえ、ああサーキットを走ったなあ、という快感はより強かったかもしれない。とはいえ、いざ競争となれば、この状態では勝ち目はなさそうだ。レーシング・マシンのセッティングとは、かくも微妙なものでもあるのだと、改めて教わった。

それにしても、ポルシェがケイマンを素材にモータースポーツ用車両を本格的に手がけたということには大きな意味がある。今後の問題は、911のモータースポーツ用車両とどう棲み分けていくか、ということであろう。いずれにしても、量販モデルをベースとしたポルシェのモータースポーツ活動は、ここに来て新たな1ページを加えることになった。

(文:河村康彦)

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