人口減と高齢化のスピードはどう変わったか 最新版「将来推計人口」が示す日本の近未来

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2015年の平均寿命は、男80.75歳、女86.98歳。前回2012年の将来推計人口では2035年には男82.40歳、女89.13歳、2060年には男84.19歳、女90.93歳という推計だったのに対し、今回の将来推計人口では2035年には男82.85歳、女89.20歳、2060年には男84.66歳、女91.06歳と伸びた。

21世紀後半は、「人生100年時代」といえる時代になるのかもしれない。ただ、より長く生きられても老後の生活資金をより多く備える必要があるし、健康で長生きできてこそ喜ばしい話である。人口推計では、各年齢の死亡率の推計をしており、それが健康状態と関連づけられなくはないが、ここで出されているのはあくまでも機械的な推計である。健康で長生きする、つまり健康寿命の延伸には、個人の努力と社会的取り組みの両方が必要だ。

将来推計人口では、平均寿命に注目が集まりがちだが、上記の平均寿命はその年のゼロ歳児の平均余命を意味するのであって、今すでに生を受けている者が平均であと何年生きるかを示す平均余命を意味するのではない。実は、将来推計人口では、各年齢における平均余命も推計している。

たとえば、2015年における65歳(1950年生まれ)の人の平均余命は、男19.41年、女24.24年である。各年における65歳の人の平均余命は、今回の推計によると、2025年(1960年生まれ)は男20.32年、女25.29年、2035年(1970年生まれ)は男21.02年、女26.11年、2045年(1980年生まれ)は男21.62年、女26.81年、2055年(1990年生まれ)は男22.14年、女27.42年、2065年(2000年生まれ)は男22.60年、女27.94年となるという。つまり、この50年間で、65歳の平均余命は、男で3.19年、女で3.7年も伸びるという。

保守的な見通しで公的年金の信頼性確保を

この人口推計を踏まえれば、老後に必要な生活資金を、個人や政府(公的年金制度)でどう役割分担をしながら確保するかが問われる。税や保険料の財源確保もままならない朝令暮改的な年金制度では、安心して老後の生活設計ができない。

目先の負担増や給付減を嫌って、いつまで経っても信頼されない公的年金制度であっては、過度な予備的貯蓄を国民に強いてしまい、消費の伸び悩みを引き起こす。誰のためにもならない。必要な年金改革は早期に実行して、信頼を高めることが求められる。

2019年に行われる年金の財政検証は、これに資するものであるべきだ。経済成長率や年金積立金運用収益率について高めの数字を想定して過度に楽観的な見通しを示すのではなく、保守的な経済前提を置いて、最悪でもこれより悪くはならないという公的年金支給額の見通しと必要な改革を提示することが、信頼をさらに高める近道である。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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