AIの雇用破壊は資本主義の「禁断の果実」だ 人間の創り出したものが人間に牙をむく日

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セドラチェク:何が労働で何が娯楽かは非常にランダムです。時代によっても変わるし、人々の心理にも大きく影響を受けます。

禁断の果実、AI

安田洋祐(やすだ ようすけ)/1980年東京都生まれ。2002年東京大学経済学部卒業。最優秀卒業論文に与えられる大内兵衛賞を受賞し、経済学部卒業生総代となる。2007年プリンストン大学よりPh.D.取得(経済学)。政策研究大学院大学助教授を経て、2014年4月から現職。専門は戦略的な状況を分析するゲーム理論。主な研究テーマは、現実の市場や制度を設計するマーケットデザイン(写真提供:NHK)

安田:工業化は禁断の果実だったのでしょうか。資本主義にとっての禁断の果実とは何だと思いますか?

セドラチェク:アダムとイブと楽園の物語では「禁断の果実」は過剰消費でした。与えられた以上の物を消費したということです。金利も「禁断の果実」で、多くの富をもたらすと同時に問題も呼び込みます。

私たちは進歩を求めますが、同時に恐れてもいる。『マトリックス』もそうでしょう? ほぼすべてのSF映画がそうですが、未来について楽観的な映画はありませんよ。どれを観ても、「私たちは自らを破滅に追い込む物を創り出してしまった」という感じです。

神話もそうです。キリスト教がよい例です。人間を創造したのは神ですが、何か間違いが起こり、人間が神を殺す。ニーチェは「神は死んだ」と言った。

プラハのゴーレムもそうです。呪文を唱えると泥人形に魂が吹き込まれゴーレムとなってユダヤ人を守りますが、使い方を間違えると狂暴化します。私たちは私たちのために働くモノやコンピュータを創り出したのに、突然、それが私たちに牙をむくわけです。

これを私は「主従逆転」と呼んでいます。自分に従うよう何かにやみくもにエネルギーを注ぎ込み過ぎると、多くの場合、最終的には私たちがそれに従わされるようになる。

工業化にも同じことが見られます。工業化が起きたのは喜ばしいことですが、工業化にも2つの顔がある。ヤーヌス(ローマ神話の門の守護神。物事の始まりの神。頭部の前後に2つの顔を持つ)と同じです。「禁断の果実」は私たちが創り出した物です。

現代では、IT(情報技術)やAI(人工知能)です。私たちが望み、多くの恩恵をもたらしてくれるモノですが、同時に、芸術的、哲学的な観点からすれば、私たちは歩みを緩めるべきだと感じさせるのです。

AIが興味深いのは、誰もが危険を察知し、私たちを破滅させる危険性があると恐れ、開発を止めさせなければと思っても、止められないことです。インターネットと同じです。インターネットを止めるのはほぼ不可能です。非常に危険で破壊的だとわかっていても、続けてしまう分野が世の中にはあるのです。

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