AIの雇用破壊は資本主義の「禁断の果実」だ 人間の創り出したものが人間に牙をむく日

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セドラチェク:お金持ちが提案したように網を買って事業にしても、幸せは訪れるかもしれない。ですが、その過程で大きな苦労を経験する。リスクを伴い、結果の保証もありません。

献血のお礼におカネを払うと献血量は減る

安田:多くの人がおカネやキャリアのために働いてはいても、キャリアを確立し十分なおカネを得たあとに何を達成できるかを真剣に考えている人は少ないということですね。ある意味で興味深く、ある意味で不可解です。なぜでしょう?

トーマス・セドラチェク/1977年生まれ。チェコ共和国の経済学者。同国が運営する最大の商業銀行の1つであるCSOBで、マクロ経済担当のチーフストラテジストを務める。チェコ共和国国家経済会議の前メンバー。プラハ・カレル大学在学中の24歳のときに、初代大統領ヴァーツラフ・ハヴェルの経済アドバイザーとなる。神話、歴史、哲学などの切り口から経済学のあり方を問い直した『善と悪の経済学』は、15カ国語に翻訳され、世界中で話題を呼んでいる(写真提供:NHK)

セドラチェク:そうですね、それは、仕事と娯楽がランダムだからです。考えてみてください。たとえば、アリストテレスが生き返って今日の社会で私たちが働く姿を見たら、きっと困惑しますよ。

コンピュータの前に座ってコーヒーを飲み、インタビューを受ける。ランチに出て、情報を一方から他方へと移動させる。基本的に「情報の移動」は先進国の経済の要となるサービスの大半で、典型的な「仕事」です。アリストテレスが見たら、これは娯楽だと思うでしょう。

自由な時間ができたら、何をします? ジョギングしたり、狩りをしたりする。庭の手入れもします。特にチェコではね。料理をすることもある。アリストテレスにとってこれは仕事です。でも私たちにとっては娯楽です。

労働については、興味深いことに時々、報酬があるとモチベーションが下がるという事態が起こります。たとえば献血ですが、献血が労働かどうかは置くとして、献血に対しておカネを払うと、献血量が減り、血液の質も落ちるそうです。報酬は欲しくない。血液はギフトにしておきたいからです。従来の経済的アプローチによれば、感謝したうえに報酬も与えればもっと血液が集まるはずですが、実際は違います。

あるグループに無償で仕事を頼み、別のグループには報酬を示して同じ仕事を頼む。すると、無償のグループのほうが有償のグループよりも、より素早くより質のいい仕事をする場合が多いという報告もあります。

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