AIの雇用破壊は資本主義の「禁断の果実」だ 人間の創り出したものが人間に牙をむく日

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セドラチェク:想像してください。今から100年後、コンピュータは私たちの代わりに肉体労働をするばかりか、知的労働もこなしているかもしれない。すると人間はどうなりますか? 仕事は? 馬と同じ末路ですよ。かつては労働に馬を使っていましたが、今ではほとんど使いません。人間も馬と同じ道をたどるのか? 経済学者が頻繁に自問していることです。

私たちはAIにどう対処するか考え始めるべきです。AIが私たちの代わりに働くのであれば、ベーシックインカム(最低限所得保障)制度を取り入れて、人間はもっとレジャーを楽しむべきですか?

AIは人間から仕事を奪います。だからこそ、私たちはAIを望んだのです。ですから、人間の代わりに本当にコンピュータに働いてほしいのなら、AIが生み出す利益の社会的な配分について考えておかなければならない。

今からでは遅すぎるぐらいです。利益がひとりの手に独占されることもありえます。そのひとりがとてつもなく裕福になって、残りのすべての人には仕事も希望もおカネもないという事態が起こるかもしれない。

もちろん、AIが生み出す利益を社会全体で所有することも可能です。これは新たに話し合うべきことです。ロバート・スキデルスキー(イギリスの経済学者、歴史学者)は、キャピタルゲインは国有にすべきだと提案しています。

ヨーゼフ・シュンペーター(経済学者。初めて「経済成長」という用語を使い、イノベーションを定義)は将来を見据えてこう言っています。「資本主義は、皆が同じ比率で株を持てば、一種の資本共産主義になるのではないか」と。

いますぐ議論を始めなくてはならない

これらの問題は、今日、私たちがすでに議論していなければならないトピックです。そうしないと手遅れになる。もし、しっかりと管理できれば、進歩はより良いものになるか、有益なものになる。生活がより楽になり、より健康になったりもするでしょう。自分たちの管理は自分たちの責任です。

安田:興味深いですね。それらの要素が「禁断の果実」だとおっしゃいましたが、問題はそれを禁じる効果的な方法がないことですね。

セドラチェク:そう、ない。非常に強力なモノを創り出しておいて、それを禁ずることができなくなる。赤信号が点滅しているのに、それでも進んでしまう。

ですから気をつけなくてはなりません。私たちは創り出し得るのです。いろんな文化圏のあらゆる神話が、己を破滅させるのは己の強さであることを示唆しています。私は、自分たちの弱さよりも強さが怖い、と思います。

安田:「禁断の果実」を食べるのを禁ずるのが不可能か難しければ、おそらくいちばんいいのは歩みを緩めることでしょうか。

セドラチェク:そうです。私たちは、自分がどこへ向かっているのかわかっていないからです。私たちの社会は、知識の欠如を速度で補っている。ですが、どこへ向かっているのかわからないのなら、まずは止まって周りを見渡して、道を探すべきです。速度を上げることは、多くの場合、問題を解決しません。

東洋経済新報社 出版局
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